かるあ学習帳

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【エロゲー】『いたずラブ』批評~私立さくらんぼ小学校論・後編~

今回私が批評する作品は、私立さくらんぼ小学校の『いたずラブ』である。私立さくらんぼ小学校のライター・苦魔鬼轟丸は、非常に作家性の強い書き手である。前回の「前編」と併せて、苦魔鬼轟丸の豊穣な作家性が少しでも皆様に伝われば幸いである。

 

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『いたずラブ ひと気のない公園で少女と愛を育もう』
シナリオ:苦魔鬼轟丸
原画:みそおでん
2009年12月30日発売
 

『いたずラブ』ってどんなゲーム?

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『いたずラブ』の主人公・板頭駄一郎は、無職のエロゲーヲタクである。駄一郎は童貞のまま30歳の誕生日を迎えたことを機に、女たちを凌辱する「凌辱男」になることを決意する。駄一郎は凌辱する女を求めて公園を訪れ、清楚な美少女・椎子に出会う。しかし駄一郎は生身の女に免疫がないので、椎子を目の前にして激しく動揺してしまう。
 
そんな駄一郎の人生の転機となったのは、椎子が落とした「フリーHチケット」であった。駄一郎が聞いた噂によると、フリーHチケットを手に入れた男性は、思春期の少女たちを言うがままに操れるという。駄一郎は拾ったフリーHチケットを椎子に見せつけ、椎子と性の営みを開始することを声高に宣言するのだった…。

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『いたずラブ』は、そんな駄一郎と椎子の性と愛の物語である。このゲームはオーソドックスなノベルゲームで、文章をクリックで読み進めることによって進行する。たまに公園の中にある「いたずらゾーン」を選択し、任意の場所で椎子に「いたずら」する。そう、このゲームは一見すると何の変哲もない普通の抜きゲーに見えるのである。思いきって言うと、ひたすらみっともない駄一郎の言動がおもしろおかしいバカゲーすら見える。
 
しかし、このゲームには巧妙なトリックが仕組まれている。これから、『いたずラブ』に仕組まれたトリックについて説明しよう。
 

現実の延長のような世界

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『いたずラブ』は、作品全体に漂う現実感がとにかくすごい作品である。このゲームでは、背景にイラストではなく実写の写真が使用されている。実写の背景には、イラストにはないリアリティがある。また、駄一郎のぶざまな日常生活も過剰なほど生々しく描かれている。駄一郎は重度にエロゲーを消費するヲタクであり、積極的な実行力が著しく不足した男である。駄一郎は、このゲームの作中でこう語っている。
 
30歳になったら凌辱男になるとか勢いだけで……実際にはなーんにもできないじゃん。
俺って昔からこうだよな。
子供の頃だって、ゲームデザイナーになる! なんて言いながら、実際にはただゲームを遊んでただけで、プログラムの一つも覚えたりしなかったし。
大人になって、今度はシナリオライターになる! なんて言いながら、実際には作品一つ書いたことない。
貯まったのはゲーム(特にエロゲー)に関する知識だけだ。
それだって、せめてエロゲーに関係する仕事をとか思ったけど、あっさり面接落ちちゃうし……。
趣味も仕事も、あらゆることをがんばらなかった。
 
東浩紀は『動物化するポストモダン』で、「ノベルゲームのプレイヤーは、他の多くのゲームと異なり圧倒的に受け身である。プレイ時間の大半、プレイヤーはただテクストを読み、イラストを見るだけだ」と指摘している。*1他の多くのゲームと異なり圧倒的に「受け身」なゲーム体験をするノベルゲーマーの端くれである私は、一般大多数の人々と比べて圧倒的に「受け身」な人生を送る駄一郎に親近感を覚えた。
 
実写の背景や駄一郎の日常だけでなく、椎子の存在も現実的である。椎子は、現実感のあるテクストで実在する少女であるかのように描かれた少女である。エロゲーマーが日常生活を過ごす現実の延長のような世界で、駄一郎と椎子の性愛を生々しく綴った作品。それが『いたずラブ』である。この作品には、現実感を強調する技巧が溢れている。
 

実現困難な「受け」×「受け」の成立

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『いたずラブ』では、駄一郎と椎子がひと気のない公園で愛を育む。この作品では、駄一郎と椎子が恋愛を発展させていく様子があたかも自然なことであるかのように描かれている。しかし、駄一郎のような男が椎子のような少女と愛を育むのは、現実ではそう簡単に実現しないということを、ここで指摘しておこう。
 
駄一郎は、趣味に対しても人生に対しても「受け身」な男として描かれている。そして椎子もまたおとなしい少女で、他の作品なら積極的な男に攻略されがちな「受け身」のヒロインである。『いたずラブ』は、フィクションでも成立困難な「受け」「受け」による恋愛を成立させた珍しい作品である。*2そもそも駄一郎のような30歳の駄目男は、現実では小学生の美少女と縁を結ぶ機会にすら恵まれていないと思う。色んな意味で、駄一郎と椎子の性愛はロリコンの夢物語である。そこで、現実では実現困難なロリコンの夢を現実の延長のような世界で叶えたところが、『いたずラブ』のすごいところである。
 
『いたずラブ』には、「受け身」な者同士である駄一郎と椎子の性愛を後押しするための仕掛けが数多く仕組まれている。まず、駄一郎が拾ったフリーHチケットは、奥手な駄一郎を奮起させるための装置だといえる。次に、脇役の幸恵や○作先生もまた、気後れする駄一郎の恋愛が発展するように促す。さらに、椎子は駄一郎との性愛が煮詰まったときに、クラスメイトの女の子と大学生の男の人が行った性行為について言及する。*3知り合いが性行為を行っていることを椎子は駄一郎に伝え、彼女らと同じことをするように駄一郎に促す。「受け身」な男女の性愛は、強い動機によって支えられるものなのだ。

*1:東浩紀動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』、講談社現代新書、二〇〇一、一一一頁。

*2:2016年12月と2018年7月の苦魔鬼轟丸の日記によると、『いたずラブ』で現実感を醸し出す演出がなされていることも、「受け」と「受け」カップリングが成立していることも、苦魔鬼轟丸が意図的に設計したことだという。巧妙な仕掛けを意識的に構築する苦魔鬼轟丸の力量には、驚嘆せざるを得ない。

*3:これは『いたずラブ』の凌辱10日目scene24で言及されていることだが、椎子のクラスメイトの女の子の名前は、愛ちゃん・彩ちゃんという。この2人は、私立さくらんぼ小学校の初期作品『こどもみるくぱふぇ』のヒロインである。したがって『こどもみるくぱふぇ』のヒロインと主人公の性愛は、『いたずラブ』のシナリオに間接的な影響を与えているといえよう。

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【エロゲー】『少女と世界とお菓子の剣~Route of ICHIGO 1~』批評~私立さくらんぼ小学校論・前編~

今回は、私が今までにプレイしたエロゲーの中で個人的に一番面白かった作品である『少女と世界とお菓子の剣~Route of ICHIGO 1~』の批評を試みる。

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『少女と世界とお菓子の剣~Route of ICHIGO 1~』
シナリオ:苦魔鬼轟丸
原画:みそおでん
2012年12月31日発売
 

『せかけん苺ルート1』「私立さくらんぼ小学校」ってなんだ?

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『少女と世界とお菓子の剣~Route of ICHIGO 1~』(通称『せかけん苺ルート1』)は、同人ゲームである。一般に、同人ゲームは商業ゲームと比べて作品のクオリティが劣ると私たちは考えがちである。しかし『せかけん苺ルート1』をプレイするやいなや、私たちはそのクオリティの高さに驚かされる。美麗なグラフィック、高度なシナリオ、プロ声優によるCV、主題歌付きのオープニング映像。作品のあらゆる要素が、並の商業作品を軽く凌駕しているのである。『せかけん苺ルート1』は、なぜこれほどまでに出来が良いのか。まずはその理由を説明したい。

『せかけん苺ルート1』は、同人サークル「私立さくらんぼ小学校」によって創造された作品である。私立さくらんぼ小学校の前身は、「赤ちゃん倶楽部」「苺みるくという商業ブランドである。ライターの苦魔鬼轟丸とイラストレーターのみそおでんは、これらの商業ブランドでロリコン向けエロゲーを創造した。しかしロリータ表現に対する厳しい規制などの逆風を受け、商業活動の継続は困難になった。そこで停止した商業ブランドに代わって、同人サークル私立さくらんぼ小学校が誕生することになったのである。私立さくらんぼ小学校の作品では、商業時代に培われた高度なノウハウが活用されている。せかけん苺ルート1』では、商業と同人で研鑽を積んだスタッフの実力が最大限に発揮されている。そのため、他の同人ゲームに類を見ないほどの最高傑作となったのだ。

『せかけん苺ルート1』のあらすじ

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『せかけん苺ルート1』をまだプレイしたことがない読者のために、この作品のあらすじを紹介しよう。主人公の汐見稔雄は、ある日ラジオの深夜番組を聴いている途中で、ラジオのノイズ音に紛れた何者からかの声を聞く。その日以来、稔雄が持つ年代物のラジオからは、稔雄の身の回りに存在する場所や人物などを示唆するキーワードが聞こえてくるようになる。一方、稔雄が通う中学校では、現実が異常になる「世界の夢」と呼ばれる不可解な現象が発生していた。稔雄は世界の夢を破壊する能力を持つ少女・春野苺と結託し、ラジオから聞こえてくるキーワードを頼りに、学校で相次ぐ不可解な現象を捜査することになるのだった。

この作品では、児童文学のような作風を持ち味とするライター・苦魔鬼轟丸のたぐいまれな文才が炸裂している。この作品には、世話焼きな幼なじみのアヤちん、温厚な巨乳美少女のナナ先輩、本当にいい奴なハツ、生意気な後輩のカバっちなど、個性的なキャラクターが多数登場する。稔雄たちが繰り広げる日常会話を読んでいると、失われた少年時代への憧憬が呼び起こされる。エロ盛りな中学生である稔雄の変態的な妄想や、稔雄と個性的な脇役の掛け合いには爆笑すること間違いなし。各章の後半は、恐怖とサスペンスの嵐である。苺が世界の夢を破壊するたび、不幸な現実が暴露される。少年たちを襲う理不尽な現実に、あなたは耐えることができるだろうか?

この作品のシナリオは並の商業作品を軽く凌駕しているどころか、書店で売られている並のミステリー小説をも軽く凌駕する出来だといってよい。私はこの作品をプレイしながら、「この物凄いシナリオは本当に人間が考えてるのか!?神が作ってんじゃないか!?」と何度もマジで叫んでしまった。なお、『少女と世界とお菓子の剣』はシリーズ物で、今のところこの「Route of ICHIGO 1」だけでなく「Route of AYANO」と「Route of NANA」が発売されている。アヤノルートも苺ルート1ほどではないが、おもしろい。ナナ先輩ルートはシナリオ後半の出来がよくないので、あまりおすすめできない。やはり一番おもしろいのは、この苺ルート1である。完結編の苺ルート2は経済的な事情でいまだに発売されていないがこの苺ルート1はある意味とてもキリのいいところで終わっている。興味のある方は、ぜひプレイしてみてほしい。

(↓ここからは『せかけん苺ルート1』と『鍵っ子少女』のネタバレを含みます↓)

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あけましておめでとうございます~読者ゼロ人の恐怖~

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あけましておめでとうございます。

 
私の今年の抱負は、
 
「読者を獲得する」
 
ですw
 
私は昨年、このブログを毎月1回以上休まずに更新してまいりました。そして投稿した記事の内容も(今改めて読むと出来にムラがありますが)、どれも自分なりにがんばって書いたつもりです。なのに、読者が一人も集まらなかった(苦笑)。
 
正直、とても悔しいです!!
 
いやまあ、なにごとも目に見える結果だけがすべてではないと常々思っていますし、愚直な努力は何らかの形でこの世に影響を与えると私は考えています。でも、読者数が0人という結果は素直に悔しいですね!w
 
昨年は記事の内容がポケモンや文学、哲学や特撮など、幅広い方向に拡散しすぎたのが良くなかったかなと反省しています昨年の活動でブログのアイデンティティーをうまく確立できなかったんですよね。そこは良くなかったと思う。もしかして読者が集まらないのは私に文才がないかr…(悲しすぎるので以下略)
 
今年は昨年の活動の成果を再利用しつつ、このブログのアイデンティティーを堅牢に固めていきたいと思います。また、新しい試みとして、エロゲーの評論をやってみたいです。ブログの宣伝のために、Twitterをはじめてみようかなとも考えています。
 
当ブログは皆様からのブックマークを超絶心待ちにしております。少しでも多くの方に「読者になりたい」と思っていただけるようなブログになるよう、今年はがんばっていきたい所存です。
 
それでは皆様、今年もよろしくおねがいします!