『終ノ空』
シナリオ:SCA-自
原画:SCA-自、基4%、にのみー隊長
(C)ケロQ
1999年8月27日発売
続きを読む彩名「ゆきとくん」彩名「たぶん」彩名「わたし、ゆきとくんが好きだったんだと思う」行人「はぁ?」彩名「世界を祝福できるゆきとくんを」彩名「自らの生を祝福できるゆきとくんを…」行人「祝福?」彩名「たぶん、卓司くんも…」行人「なんだよ、それ?」彩名「だって、ゆきとくんは愛しているんだもん」行人「何を?」彩名「世界を」彩名「だから、ここで、見つめていられる」
行人「いいや」行人「生きなくともいい」行人「ただ」行人「見つめる事だ」卓司「見つめる?」行人「そうだ」行人「呪われた、生を」行人「祝福された、生を」行人「呪われた、死を」行人「祝福された、死を」行人「見つめる事だ」(中略)行人「この誤謬の世界」行人「それこそが」行人「それゆえに正しいものさ」行人「それが」行人「どんなに」行人「俺達にとって」行人「グロテスクな姿を見せても」行人「それを」行人「見続ける」行人「それが」行人「正しさだ」行人「世界を見続ける…」行人「それが」行人「俺達の責任の取り方だ!」
彩名「ゆきとくん」彩名「わたし、わたしとして、ゆきとくんに出会えた事を感謝してる」 (中略)彩名「また」彩名「また会えるといいね」行人「?」彩名「無限のなかの有限のうちに…」行人「なに、わけわかんない事いってるんだよ」彩名「永久回帰って本当かな…」
なに!?ク、クラス中に人が…?俺は…。誰もいない教室に、音無といたはずだ…。行人「音無は?」琴美「はい?」行人「音無彩名は?」琴美「…」琴美「ちょいと」琴美「行人さん…」行人「いてててててて!」行人「耳ひっぱんな!」行人「痛てぇよ!」琴美「その女」琴美「誰!」
琴美「飛行機に突然トラブルがあってね」
琴美「それで、その飛行機、無人島に不時着するの…」行人「それで…」琴美「とりあえず、何人か助かるんだ」琴美「でね、無線とかで、助け呼ぶの」行人「…」行人「当然だな」琴美「でも、すぐ向かいますとかいって、救助隊は全然こないの」琴美「なんか、明日には、あと数時間後には、あと何十分後にはとか言って…」 琴美「ずっと来ないの」琴美「そのうち、一人が気がつきだすの…」琴美「自分たちは既に死んでいるのではないかと…」琴美「ここは地獄であり」琴美「永久に、希望と絶望をくり返さなければならないのではと…」 琴美「その時、また無線が入って…」琴美「もう、すぐに助けに向かいます…ってね」行人「ふふふふ、発狂もんだ…」
琴美「新学期が始まったから」琴美「一緒だね…」琴美「ずっと」琴美「ずっと、ずーと」琴美「一緒だよ」琴美「有限のなかの無限のうちに…」彩名「無限のなかの有限のうちに…」琴美「ここで…」彩名「ここ以外で…」琴美「この世界は、それまでの世界?」彩名「それまでの世界は、この世界?」琴美「ずっと」彩名「ずっと、ずっと」琴美「永久に…」彩名「無限に…」琴美「一緒」琴美「だよ」琴美「今日から、新学期だから、ここで、行人とずっと一緒だよ」
彩名「ゆきとくんは」彩名「ここまで」彩名「学校まで来た記憶がないのに」彩名「学校にいるんでしょ」行人「ああ、そうだ」行人「なら」行人「…やばいよな」行人「俺、病気かな?」彩名「くす」彩名「かもね」
彩名「もしかしたら」彩名「永久に続くかもよ」行人「何が?」彩名「目をつぶった瞬間」彩名「また」彩名「透明な白の中で」彩名「自分を感じるの」彩名「そして」彩名「また」彩名「校門の前で」彩名「立ちつくすかも」彩名「そして」彩名「ここでわたしと会うかもしれない」彩名「いいえ」彩名「もしかしたら」彩名「わたし以外のわたしと会うかも」彩名「無限のわたしと」行人「どこで?」彩名「ここで…」彩名「ここでよ」
行人「たしかに」行人「そうなったら」行人「俺がいた」行人「あの」行人「あの世界は」行人「終わってるな」行人「ここは」行人「あの世界ではなく」行人「無限という」行人「死の世界だな」彩名「くす」彩名「あの世界…」彩名「まるで」彩名「あの世界と呼んでいる」彩名「現実世界が」彩名「あの世になったような」彩名「そんな、言い回し」行人「ふふふふ」行人「その通りだよ」行人「もし」行人「俺がいままでいた」行人「現実世界というものが」行人「終わっているなら」行人「もう」行人「あの世界」行人「つまり」行人「現実世界は」行人「あの世だよ」行人「そして」行人「無限という」行人「死の世界が」行人「この世となる」行人「…」行人「死が絶対にない」行人「死の世界」行人「ふふふふ」行人「それは」行人「地獄だな…」
次の瞬間が奈落だとしても、それは、しかたない事なのだ。我々はそんな、むき出しの不条理のなかを、実は、生きているのだ。…。
ふと俺はこんな話を思いだした。ある哲学者がまだそれでは食っていけず、塾の講師をしていた時の話らしい。 彼は、ある学生に九九を教えていた。この学生は鈍臭く、何をやってもだめだったが、あたりまえのように九九もだめであった。 しかしこの学生の間違えには面白い法則性があった。彼は、答えが100を超える数字になると、とたんに答える事が出来なくなったのだ。 つまり、彼は九九とは100以下まで有効な法則だと思い、それ以上の数にはまた新しい法則が付け加えられなければならない と考えたらしい…。 (中略)科学は過去起きた事のなかから法則と呼ばれるものを取り出し、未来を予測する。 〈高いところにあるリンゴから手を離すと、過去にもそれが誰がやってもそう落ちたようにこれも下に落ちる〉 と未来予測をする…。 我々の認識の大半も過去にあったものの再現によって、未来予測をおこなっている。 昨日、明日が来たから、今日にも明日が来ると…。さっきの一歩が踏めたから次の一歩も踏めると…。明日が来ないかもしれないといって、仕事をやめる人もいないし、次の一歩はまだ世界が出来ておらず、踏み出せば奈落に落ち込むといって次の一歩をためらう人もいない …。 だが、そう言えるのか?今までの事が次も起こるのか?もしかしたら次の一歩には世界がまだ間に合っておらず、踏み出した瞬間に奈落に落ち込むのでは…。 もしかしたら、今までが99であって…もうすでに…。