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『青い空のカミュ』体験版と『ペスト』を読む~他人を大切にし続けるのは難しい~

今回は、『青い空のカミュ』体験版とカミュの小説『ペスト』の関係を考察します。『青い空のカミュ』体験版と『ペスト』を未読の方にもお分かりいただけるように書いたつもりですので、何かの参考になれば幸いですw
 

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『青い空のカミュ』体験版
シナリオ・原画:〆鯖コハダ
(C)KAI
2019年2月21日公開
 
公式サイトのコラムによると、『青い空のカミュ』のシナリオは、カミュの『ペスト』にある「最悪の不幸の中においてさえ、真実に何びとかのことを考えることなどはできない」という文言から着想を得たものだそうです。このセリフは、『ペスト』に出てくるタルーという男が、ペスト患者が隔離されている収容所を見て発した文言です。『ペスト』に載っているタルーの実際の文言を読んでみましょう。
 

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「結局最後のところで気がつくことは、何びとも、最悪の不幸のなかにおいてさえ、真実に何びとかのことを考えることなどはできないということである。なぜなら、真実に誰かのことを考えるとは、すなわち刻々に、何ものにもー家事の心配にも蠅の飛んでいるのにも、食事にも、かゆさにもー心を紛らされることなく、それを考えることだからである。ところが、蠅やかゆさというものは常に存在する。それゆえに、人生は生きることが困難なのである」*1
 
要するに、私たち人間は日頃から仕事や家事などのことで心をわずらわされており、誰かのことを常に絶え間なく考え続けることはできない…と『ペスト』のタルーは言っているのです。収容されているペスト患者たちは、収容所の外の世界から忘れ去られている。そして、患者たちを愛する人々も、彼ら自体ではなく彼らを出所させるための計画ばかり考えている。収容されているペスト患者たちは、誰かに一途に思いを寄せられることがない、忘れ去られた人々なのです。確かに〆鯖コハダさんのおっしゃる通り、やりきれないお話ですねw
 
では、『青い空のカミュ』体験版の燐と蛍はどうでしょうか。燐と蛍は不気味に変容した田舎町の中で懸命に生きながら、友情を深めていきます。体験版をプレイした限りでは、燐と蛍は固い絆で結ばれているように見えます。燐と蛍は、現時点では常に絶え間なく…とまでは言い切れませんが、お互いを深く思いやっていると思いました。今のところ、燐と蛍がお互いを忘れ去ることはないように思えます。
 
しかしこの体験版の時点で、他人を大切にし続けることの難しさがいろいろ表現されているところは見逃せませんね。

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例えば、燐と蛍がいっしょに自動販売機で飲み物を飲む場面では、「自分が大事にしていたものが突然、変わったとしたら、自分がそれを許容できるだろうか?」という問題が提起されています(個人的に、この場面は正直文章が不親切で読みにくいなと思いました)

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また、現時点ではよくわからないことが多い場面ではありますが、なんで、綺麗なものをちゃんと大事にしたいだけなのに……うまくいかないんだろう」とオオモト様が話す場面も印象的でしたね。
 
体験版のラストでは、燐と蛍が手を繋いで森の中を歩きます。

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燐(例え、これがウソの情報だって……構わない)
今は、蛍が一緒にいることだけを信じればいい。
 
私は今回の体験版をプレイして、燐と蛍はこれから離ればなれになっちゃうんじゃないかなと予想しました。最近UPされた『青い空のカミュのOPmovieには、繋がれた燐と蛍の手と手が離れる場面があります。「あの夏の三日間、僕たちは完璧になれた」「これは二人の少女を繋ぎ止める三日間の物語」という公式サイトのキャッチコピーは、「三日後に燐と蛍が離別する」ことを暗示しているように読める気がします。私の推測が間違ってたらサーセンwww
 
最後に、体験版の作中に出てくる「例えば月の階段で」という曲の歌詞を引用します。

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きっと、二人にしかわからない……
でもかまわない。だって、ほかには何もいらないから……
いつか、あなたが消えてしまっても……
それは失ったわけではないから
忘れても、覚えていても、それすらも同じ
だからもう怯えないで
それは、失ったわけではないから
 
現時点ではまだ迂闊なことは言えませんが、この歌詞は大切な人との別れを予感させる歌詞ですよね。もしも大切な人が消えてしまっても、その人が存在していたという事実はいつまでも残り続ける。だから、「消える」ということは「失う」ということではない。大体そんなことを言いたいのだと私は思いました。これから燐と蛍が離別することがあっても、その離別は「喪失」として描かれることはないだろう。私はそう予想しています。
 
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*1:カミュ(宮崎嶺雄訳)『ペスト』、新潮文庫、一九六九、三五六頁。