かるあ学習帳

この学習帳は永遠に未完成です

エヴァ旧劇場版再考~複雑な共生~

エヴァンゲリオン旧劇場版のラストで、シンジは傷ついてもいいから他人と共に生きることを決断しました。静かな海辺には、シンジとアスカの2人だけが存在しています。

 

f:id:amaikahlua:20190820140600j:plain

脚本:庵野秀明
(C)GAINAX/EVA制作委員会
1997年7月19日公開
 

愛憎入り混じる結末

 

f:id:amaikahlua:20190820140705j:plain

シンジは、アスカの首を締めます。シンジは他人と共に生きることを決断したのに、他人であるアスカの首を締めてしまうんですね。シンジがアスカの首を締めた理由はいろいろ考えられますが、アスカがシンジに対して冷淡に思える態度を取ったから」という理由を私は挙げたいです。シンジにとってアスカは自分を見捨てて孤独にする他者だったから、シンジはアスカに殺意を抱いたのではないか…というのが私の考えです。
 

f:id:amaikahlua:20190820140837j:plain

シンジはアスカに対して殺意を持っていたと思いますが、それ以前にシンジはアスカを必要としてもいたんだろうなと思います。シンジはアスカに「ねえ、僕を助けてよ」と言っており、アスカにすがろうとしました。また、シンジはアスカの裸体を見て自慰行為をしており、性的な意味でもアスカを必要としていたと思います。でも、アスカはシンジを受け入れていないように感じたから、シンジはアスカを殺そうとしたと考えられる。こうして書いてみると、シンジは本当にみっともない主人公だな(笑)。
 
宇多田ヒカルさんの「For You」という曲の歌詞には、「一人じゃ孤独を感じられない」とあります。人はシンジのように他人を必要とする生き物ですが、なおかつ他人といっしょにいることによって初めて孤独を認識する生き物でもあります。エヴァ旧劇場版と宇多田さんの曲には、そうした人間のアンビバレントな側面がよく表れていると思います。新劇場版の主題歌を宇多田さんが歌うのは、必然の流れだったのかもしれませんね☆
 

f:id:amaikahlua:20190820140939j:plain

アスカの首を締めるシンジを、アスカはそっと撫でます。この撫で方は優しい感じがして、アスカのシンジに対する思いやりが感じられましたね。ツンツンしたアスカのシンジに対する優しさが視覚的に感じられる、珍しい場面だと思いました。
 

f:id:amaikahlua:20190820141111j:plain

シンジは、急に泣き出します。シンジが泣き出した理由も、いろいろ考えられます。アスカがシンジに愛情を示したので、シンジは感激したのかもしれない。また、アスカに負の感情を抱いた自分が情けなくて泣いたのかもしれない様々な感情が入り混じった涙だったんでしょうな。
 

f:id:amaikahlua:20190823171455j:plain

最後に、アスカがシンジにこれ以上なく冷たい声で「気持ち悪い」と言って終了です。
 
アスカの「気持ち悪い」発言をネガティブに解釈するご意見を、ネットではよく見かけます。なぜかというと、「BSアニメ夜話というテレビ番組にアスカ役の声優・宮村優子さんご本人が出演していて、そのときの発言がネットで流布しているからじゃないかな。庵野監督が宮村さんに「自分の身体で自慰行為をする男をどう思う?」ということを質問して、宮村さんが「気持ち悪い」と思ったという逸話が旧劇場版のラストに反映されているらしい…エヴァファンの間では有名なお話ですね。
 

f:id:amaikahlua:20190820141956j:plain

しかし、私はここで皆さんにある本を紹介したいと思います。それは、ゴジラエヴァンゲリオンという本です。この本は正直あまり面白い本ではありませんでしたが、2007年にアスカ役の宮村さんが発した重要なお言葉が載っていました。この本によると宮村さんは、アスカはシンジに好意を持っていると思ってアスカ役を演じていらっしゃったみたいなんですね。よくある「自慰行為をする男に嫌悪感があるから気持ち悪い説」を上書きする重要な資料なので、引用させていただきます。
 
アスカ役の声優・宮村優子は、アスカについて「今でいうところのツンデレ異性として気になるのはシンジだけど、なかなか表に出すことが出来ない」(「FLASH EXCITING」二〇〇七年九月一〇日増刊号、エヴァ特集)と述べている。そういう気持の籠もった「気持悪い」なのだ、と私は信じる。*1
 
この資料を考慮すると、アスカはシンジに対して嫌悪感を持っている一方、内心好意も持っていて、その感情が入り混じったうえで「気持ち悪い」と言った…と解釈できるかと思います。
 

現実は複雑だ

 

f:id:amaikahlua:20190820142416j:plain

エヴァ旧劇場版の結末は、現実そのもののように複雑な結末だと思います。シンジはアスカに殺意を抱きつつ、アスカを必要としてもいるらしい。アスカもシンジのことを「気持ち悪い」と言いつつ、シンジに対して愛情を持ってもいるらしい。現実の人間関係も、シンジとアスカの関係のように、相手に対する憎しみと愛が入り混じった複雑なものだと思います。このラストでは、「他人と共存することの複雑さ」がよく表れているというのが現時点での私の結論です。
 
余談ですが、私は大学時代に、非常に不思議な縁でガイナックスの元社員の方(今業界では有名な方だと思います)からお話を伺ったことがあります。その方は、エヴァ旧劇場版のシナリオは、お客さんに伝わりにくかったかもしれませんね…」とおっしゃっていました。確かに、エヴァ旧劇場版のシナリオは難解です(苦笑)。特に、アスカがシンジに対して持っている「好意」を読み取るのに私は非常に苦労しました。
 
前回私は「エヴァ旧劇場版は現実の嫌なところを描きすぎている」と書きましたが、今回見返してみると他人と関わることの愛と希望もわりと描かれていましたね…。誤解を招く書き方をして申し訳ございませんでした。
 
〈参考にした記事〉

*1:長山靖生ゴジラエヴァンゲリオン』、新潮新書、二〇一六、一五五頁。