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『劇場版仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』批評~水と油の向こう側~

今回は、『劇場版仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』(以下『トゥルー・エンディング』)を批評します。この映画は文字通り、TV版『仮面ライダーエグゼイド』最終話の後日談としての「真の結末」を描いた作品です。

 

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『劇場版仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』
監督:中澤祥次郎
脚本:高橋悠也
(C)「エグゼイド・キュウレンジャー」製作委員会
2017年8月5日公開
おすすめ度:★★★★☆(短い映画だが、落としどころが非常に上手い)
 

仮面ライダーエグゼイド』ってなんだ?

 
仮面ライダーエグゼイド』(以下『エグゼイド』)をまだ観たことがない方のために、そもそも『エグゼイド』というのがどんな作品なのかをご案内いたしましょう。『エグゼイド』という作品は、端的に言って「医療」「ゲーム」をテーマとする作品です。
 

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『エグゼイド』の主人公・宝生永夢は、聖都大学附属病院に勤務する心優しい研修医です。しかし永夢には天才ゲーマー・Mの異名があり、永夢はゲームをプレイすると人格が豹変します。永夢たちは仮面ライダーに変身し、「バグスターウイルス」というコンピューターウイルスと戦います。バグスターウイルスはコンピューターから誕生したウイルスですが、人間に感染して「ゲーム病」という病気を発症させる厄介なウイルスです。永夢たちは、医療とゲームを股に掛ける戦いを繰り広げます。
 
さて、この作品の主題である「医療」と「ゲーム」という組み合わせに、ものすごい違和感を覚えた方は多いのではないでしょうか。なにせ「医療」は「現実」であり「仕事」である一方、「ゲーム」は「虚構」であり「趣味」だというイメージを持たれやすいものです。お医者さんたちは重い病気に苦しむ患者という「現実」に向き合うのが「仕事」です。一方ゲームは基本的に実体のない「虚構」だし、「趣味」です。最近はVRやeスポーツの台頭により、その認識は変わりつつありますが。
 

水と油の向こう側

 
『エグゼイド』は、「医療」と「ゲーム」という水と油のようにうまく噛み合わないテーマを内包した、不思議な作品です。映画『トゥルー・エンディング』のシナリオでは「医療」と「ゲーム」というテーマをさらに徹底し、しかも両者を上手く橋渡しするという凄い技が使われていると思いました。
 

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『トゥルー・エンディング』には、小児がんで入院中のまどかちゃんという幼女が登場します。作中では小児がんという現実に実在する病気が登場し、脳腫瘍摘出手術の場面も描かれます。この映画では、「医療」の現場が直面する深刻な「現実」や緊迫した「仕事」の様子が、TV版『エグゼイド』よりもだいぶリアリティのある表現で描写されていると思いました
 

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また、『トゥルー・エンディング』では、感染した人々の意識を仮想現実に飛ばすウイルスが流行します。永夢は「幻夢VR」というゲーム機を使い、仮想現実にアクセスして患者を救いに行きます。この映画ではゲーム機を介して見ることができる仮想現実での戦いが描かれるのですが、仮想現実での戦いの結果は現実の患者の容態に影響を与えています「ゲーム」というテーマを徹底しつつ、「医療」と「ゲーム」を上手く繋げるお話になっていました。
 

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『トゥルー・エンディング』には、「南雲影成」と「ジョニー・マキシマ」という2人の悪役が登場します。ネタバレになるので詳しくは言いませんが、影成は娘への愛が暴走した父親で、ポケモン映画『結晶塔の帝王』エンテイに極めて近いタイプのボスだと思います。また、ジョニーは『SSSS.GRIDMAN』のアレクシス・ケリヴに近いタイプのラスボスだと思います。ここらへんについて詳しく考察したら面白い批評が書けるかもしれませんね。まあ、私は書きませんがw
 

究極の救済

 
『トゥルー・エンディング』のキャッチコピーは、命を救うのはVR《仮想現実》の世界かーリアルな医療かー」です。私はこのキャッチコピーを見て、「この映画では、ゲームか医療かのどちらかのテーマが選ばれるのかな?」と思ったものです。
 

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ところがこの映画で患者の命を救ったのは、仮想現実にもリアルにも介入する医療」でした。虚構を捨てて現実に帰れ!」というのではなく、「現実のことは忘れてゲームを楽しもう!」というのでもなく、「虚構と現実を両方使って人々を救済する」という、「エグゼイド=究極の救済」の形がこの映画で描かれていると思いました。エグゼイド』の物語は『トゥルー・エンディング』で、「医療とゲーム」という「水と油」が両立するこの作品らしい、非常にユニークな結末を迎えたと思います。
 

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この場面の黎斗神、超かっこいい
最後に余談ですが、人気が高い檀黎斗神の見せ場が多いところも良かったw黎斗神が永夢に渡した「幻夢VR」は、作中で虚構と現実を橋渡しする重要なアイテムだったと思います。この映画を観ていると、VRは従来の虚構と現実のあり方を大きく変える技術だということがよくわかるなあ。