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『裂空の訪問者 デオキシス』批評~奥行きのある世界~

今回は、ポケモン映画第7作『裂空の訪問者 デオキシス(以下『裂空の訪問者』)を批評します。いきなり嫌な話になるのですが…この映画はネットでの評判があまり良くないです。某匿名掲示板のつまらなかったポケモン映画を挙げるスレとかで、この映画が酷評されているのをたまに見かけます。

 
…確かに、この映画のシナリオはそれほど面白くはないかもしれません(オイ)。でも、私はこの映画が好きです。なぜなら、この映画では世界観に奥行きが感じられるからです。これから、世界観に奥行きが感じられるというのはどういうことなのかを説明します。
 

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『裂空の訪問者 デオキシス
監督:湯山邦彦
脚本:園田英樹
(C)ピカチュウプロジェクト
2004年7月17日公開
おすすめ度:★★★☆☆世界観に奥行きが感じられるところが良い)
 

様々なる視点

 
・マクロな視点:「宇宙人」と「怪獣」の戦い

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『裂空の訪問者』では、伝説のポケモンデオキシスレックウザの戦いが描かれます。デオキシスは宇宙からやって来たポケモンで、ウルトラマンでいう「宇宙人」のような外見をしています。デオキシスに縄張りを侵入されたレックウザは、ウルトラマンでいう「怪獣」のような(ちょっと苦しいかも…)外見をしています。強大な「宇宙人」と「怪獣」の戦いが、物語の軸になっています。
 
デオキシスはラルースシティに現れ、街中を混乱に陥れます。しかし、デオキシスは人々や他のポケモンを苦しめたり、世界を侵略したいわけでは(おそらく)ありません。ネタバレになるので詳しいことは書きませんが、デオキシスにはこいつなりの事情があったのです。デオキシスは「侵略者」でもなければ「破壊者」でもなく、題名の通り「訪問者」だよなあと思います。
 
・社会的な視点:混乱した街の群衆

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『裂空の訪問者』では、デオキシスレックウザの戦いで混乱した街の人々やポケモンたちの様子が描かれます。大勢の人々は避難しますが、街に残されたサトシたちは力を合わせて困難と戦います。街に残された人々やポケモンたちがただ単に協力するだけじゃなくて、科学の力を借りて災難に立ち向かっているところが良かった。「かがくの ちからって すげー!」という、ポケモンらしいアプローチになっていると思いました。
 

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この映画の終盤では、街のガードシステムが暴走します。まさかラストで人間でもポケモンでもないテクノロジーとの戦いが描かれるとは思わなかったんだよなあ…。正直気軽に口に出したくない話題ですが、日本でも震災のような厄災が起きると、それに伴ってテクノロジーの事故が起こる場合がありますよね…。原発事故とか。
 
・ミクロな視点:トラウマを抱えた個人の救済

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『裂空の訪問者』には、トオイという非常に臆病な少年が登場します。トオイは、4年前にデオキシスレックウザの戦いに巻き込まれたことにより、心にトラウマを負いました。ポケモンや人間との関わりを極度に避けていたトオイは、サトシたちとの出会いによって心を癒します。この映画はけっこうスケールが壮大な作品ですが、トオイという個人の救済と成長の物語でもあります。
 

奥行きのある世界

 
『裂空の訪問者』は、災難に見舞われたラルースシティの様子を視点を変更しながら捉えた作品だと思います。街の上空でダイナミックに戦う伝説のポケモンに焦点を合わせたり、その影響下で必死で生きている人間やポケモンを描いたり、トラウマを抱えた個人の成長をクローズアップしたり。この映画は大きな出来事を焦点や倍率が異なる視点で見ているように感じられたので、そういう意味で「立体的」だし「奥行きがある」作品だと思いました。
 
最後に話がだいぶ飛躍していることを承知で言うと、今の日本社会はなんだか『裂空の訪問者』みたいな感じがする。今の日本には地震や台風のように大きな災害が来るし、そんな中で全力で戦ったり逃げ回ったりする人たちがいるし、個人的で深刻な悩みを抱えている人たちもいる。『裂空の訪問者』って、日本社会の縮図みたいだな…と思ってしまった。