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『セレビィ 時を超えた遭遇』批評~タイムパラドックスの憂鬱~

今回は、ポケモン映画第4作セレビィ 時を超えた遭遇』(以下『遭遇』)を批評します。ポケモン映画第1作『ミュウツーの逆襲』から第3作『結晶塔の帝王』までは首藤剛志さんがメインで脚本を担当していましたが、遭遇』からは園田英樹さんがメインで脚本を担当することになります。当ブログでは、考察を進めながら首藤さんと園田さんの作風の違いについても考えていきたいと思います。

 

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セレビィ 時を超えた遭遇』

監督:湯山邦彦
脚本:園田英樹
(C)ピカチュウプロジェクト2001
2001年7月7日公開
おすすめ度:★★★★☆(全体的に高レベルな作品だが、タイムパラドックスがお粗末だ)
 

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『遭遇』では、40年前の過去から現在にタイムスリップしてきた少年・ユキナリとセレビィがサトシの前に現れます。物語の舞台は、自然豊かなハテノの森です。緑に覆われた森の背景美術が美しく、エコロジー思想溢れるシナリオになっています。『遭遇』はその性質上、スタジオジブリ作品(特に『もののけ姫』)を彷彿とさせる作品です。スタッフの皆さん、ジブリを意識してそう。
 

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『遭遇』の悪役は、ロケット団最高幹部のビシャスです。ビシャスは、ポケモン映画史上屈指の「いかにも悪役らしい役回りのある悪役」だと思います。ミュウツーの逆襲』のサカキはミュウツーのパワーに押され気味だったし、『ルギア爆誕』のジラルダンには邪悪さが足りないと思う。『結晶塔の帝王』に至っては悪役らしい悪役の出番が殆どありませんでした。しかし、ビシャスは他人のポケモンを強奪し、セレビィの力を利用して森林を破壊した。ラストまで悪役の役割を果たした悪役でした。
 
ビシャスは、自然環境だけでなく「ポケモン世界のタブー」をも破壊した悪役だと思います。ゲーム版ポケモンでは「ひとのものをとったらどろぼう!」と言いまして、他人のポケモンを強奪することが禁じられています。また、ポケモンは子供向け作品ですから、ポケモンの死や殺害を基本的にはダイレクトに描写しません。でも、ビシャスは強奪を行い、セレビィを(間接的に)死に追いやった。私は子供の頃映画館でビシャスを見て怖いと思ったのですが、掟やぶりなビシャスの悪意に圧倒されたからだと思いますね。
 

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『遭遇』では、ポケモンという作品が従来避けてきた「ポケモンの死」が克明に描写されています。スイクンが水を浄化し、サトシが木の実を与えてもセレビィが復活しない場面が効果的でした。回復技や回復アイテムが通用しない、生物の生々しい死が強烈に印象に残ります。
 
『遭遇』は全体的に高レベルな作品ですが、「タイムスリップ」という要素を取り入れたせいでシナリオの一貫性が怪しくなっていとよく言われます。
 
↑詳しい事は上記のブログさんに書いてあるのですが、
物語の前半でトワおばあちゃんが言ったセリフとラストの内容が矛盾している
・ユキナリがタイムスリップをして40年間不在だったら、オーキド博士オーキド博士に関わる者たちの歴史が消滅する
という重大な問題があります。
これらの問題の解決策も上記のブログさんに書いてありますけど。
 

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脚本家の園田さんがこの映画のシナリオをどこまで考えて練っているのか怪しいな…。根拠は無いのですが、制作スタッフが「たかが子供向けアニメだから」と妥協して、タイムパラドックスをいい加減に放置しているように思える。まあ、この手の時間旅行物語は、考えるな感じろの精神で割り切って楽しむべきかもしれませんね(苦笑)。
 

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ちなみに『遭遇』の同時上映作品は『ピカチュウのドキドキかくれんぼ』なのですが、この作品はなかなか出来が良い。ピカチュウたちがかくれんぼをしている途中で芝刈り機が暴走し、ちょっとしたパニックになるという話。同時上映はかわいいポケモン達の馴れ合いで退屈なものになりがちだと思いますが、この作品にはスピード感がある。話が綺麗にまとまっているので、シナリオが怪しい『遭遇』よりもこちらの方がある意味優秀な作品かもしれない(笑)。