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『フロレアール』考察~「神」に挑んだ男~

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フロレアール~すきすきだいすき~』

シナリオ:元長柾木
(C)13cm
1999年7月発売
 
今回は、知る人ぞ知る美少女ゲームフロレアールにおける「神」の存在について考察します。
 

「神」への挑戦

 

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「僕とメルンがいるこの世界は、神によって創られた。そして、神はこの世界を僕とメルンの幸福な物語が紡がれる場として設定した。僕とメルンは、その物語を遂行する駒に過ぎないんだ。ーー僕は、その理不尽が憎い」
 
フロレアール』の主人公・ジャンは、『フロレアールという物語を創造した「神」に戦いを挑みます。ジャンによれば、「神」はジャンとメルンが幸福な生を送るように『フロレアールという物語を設定した。…ということは、メルンを不幸にすれば、メルンが幸福になることを望んだ「神」に反逆できるのではないか?とジャンは考えました。
 
ジャンとメルンは幸福な生を送ることができるのに、どうしてジャンはその摂理に逆らおうとするの?折角幸福を享受できるんだから、ジャンは大人しく「神」に従っていればいいじゃない?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、ジャンは「神」の駒になるのではなく、自分の人生を自分で切り開きたかったのです。「神」から自由になるために、ジャンは「神」に反逆しようとしました。
 
 自分の人生があらかじめ決められていること。そんなことに、僕は耐えられなかった。自分で自分の生きる道を切り拓きたかった。
 僕は、神の定めた道から逸脱しようとした。自由を掴もうとした。
 
ジャンはナイフを振り下ろし、メルンを殺害しようとします。メルンが殺害されればメルンの人生はバッドエンドになり、「神」が用意したハッピーエンドは克服されるだろう。…そうすれば、自分は自由になることができる…とジャンは思ったのです。自分の自由を手に入れるために自分の従者を殺害しようとするなんて、ジャンは傍迷惑な奴だなと正直思っちゃいますねw
 
しかし、ジャンの試みは失敗しました。
 
メルンは、ジャンの殺意を、笑顔で受け入れたのです。
 

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それは、笑顔だった。
メルンの顔に、笑顔が浮かんでいた。
全てを赦す笑顔が、そこにはあった。
ーーご主人様になら殺されてもいいです。
笑顔は、そう言っているようだった。
 

神-プレイヤー-作者

 
ジャンは、「神」への反逆に失敗しました。さて、ジャンが戦いを挑んだ「神」については、少なくとも3通りの解釈があると思います。1つめは、文字通り神様。2つめは、『フロレアール』をプレイするプレイヤー。3つめは、フロレアール』の作者である元長柾木氏。
 
まず、ジャンが戦いを挑んだ「神」は、文字通り『フロレアールの世界の《外部》に存在する超越神だと解釈できます。これは身も蓋も無い解釈です。ですが、「神」という言葉を別の単語に解釈変換していないので、恣意性が無くて無難な解釈だと思います。
 
次に、ジャンが戦いを挑んだ「神」は、『フロレアールというゲームをプレイしている「プレイヤー」だという解釈があります。フロレアール』をプレイしているプレイヤーたちは、ジャンとメルンが期待通りの結末を迎えることをゲームの《外部》で望んでいます。しかしジャンは、ハッピーエンドを願うプレイヤーたちに反逆したという説です。「神」=プレイヤー説は、「猫箱ただひとつ」さんのコメント欄に載っていました。
 
「神」=プレイヤー説は、トリッキーで面白い説だと思います。ですが、「神」=プレイヤー説には、いくつかの反論が予想されます。その反論の一つに、『フロレアール』のプレイヤーたちは期待通りの結末を「望む」ことや「選択する」ことはできても、「創造する」ことまではできないのではないか?という反論があります。世界を「創造する」のはあくまでも神や作者にできることであって、プレイヤーにはできないことなのではないか。この問題を、私はいつか検討したいと思っています。
 
最後に、ジャンが戦いを挑んだ「神」は、『フロレアールシナリオライター=元長柾木氏だと解釈できると思います。元長氏は、ジャンとメルンが幸福になることを願ってシナリオを書いたと仮定できます。そしてジャンは、メルンを幸福に導こうとする元長氏の意志に敗北したと考えられます。私=甘井カルアは、この説を特に強く推します。
 

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また、「神」を元長氏だと解釈すると、『フロレアールに登場するクラマスという犬の立ち位置もわかってくるのではないかと思います。私が読んだ限り、クラマスは怠け者の犬で、メルンにだけなついている様子です。私の憶測ですが、クラマスは元長氏の投影ではないかと思いました。元長氏は自分のことを怠け者だと卑下していて、作中の登場人物ではメルンのことが気に入っているのかもしれない。そして、メルンの愛する人であるジャンのことを心のどこかで警戒しているのかもしれない。そんな作者が、自分の心情を作品の《外部》からクラマスに投影しているんじゃないかな。根拠は弱いですが。
 
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