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『仮面ライダーゼロワン』第1話と『言葉の魂の哲学』~言語と体験について~

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今回は古田徹也著『言葉の魂の哲学』を参照しながら、仮面ライダーゼロワン』第1話を考察します。『仮面ライダーゼロワン』第1話を、「言語」と「体験」という観点から語ってみようと思います。

 
仮面ライダーゼロワン』第1話では、売れないお笑い芸人の主人公・或人が、AIの怪人・ベローサマギアと戦います。或人とベローサマギアの会話から、「言語」と「体験」について考えてみることにしましょう。
 
或人は、人間の夢を笑い物にするAIに対して激怒します。

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或人「笑うなよ。何もわかってないくせに、人の夢を笑うんじゃねえよ!」
 
AIのベローサマギアは、「夢」という言葉の意味を辞書的に解釈しています。

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ベローサマギア「わかっている。夢とは、将来の目標や希望、願望を示す言葉だ
 

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或人「人の夢ってのはなあ、検索すればわかるような、そんな単純なものじゃねえんだよ!
 
或人が言う通り、「夢」という言葉の意味は、辞書やインターネットで検索した結果をなぞっただけで完全に理解できるものではありません。「夢」という言葉にはその言葉特有の感じがあり、今まで「夢」という言葉を使ってきた人々の思いや体験が込められています。言葉を「感じること」「体験すること」によって、その言葉の理解が成立するのではないかとウィトゲンシュタイン考えました。
 
 使い方は知っているが、理解せずにそれをなぞっている、ということはありえないだろうか。(ある意味で、鳥のさえずりを真似るときのように。)理解というものが成立するのは、何か別のことにおいてではないか。すなわち、「自分の胸の内に」感じること、当該の表現を体験することにおいてではないだろうか。*1
 
言葉を「自分の胸の内に」感じたり、当該の表現を体験したりすることは、AIの苦手分野であるはずです。言葉の辞書的な意味や使い方を「知っている」だけで、その言葉を「理解している」と言うことはできるのでしょうか。ベローサマギアには人間の夢を笑える程度の感情や自我は備わっているようですが、人間の夢をどこまで体験して理解しているのかが怪しいですね。
 
仮面ライダーゼロワン』第1話のラストには、或人のダジャレをAIのイズが説明する場面があります。このラストには、「言語」と「体験」が深く絡んでいると思います。
 

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或人「名刺を見つめる名シーン!はい、アルトじゃーないとー!」
イズ「これは、伝統的な言葉遊びで、名刺と名シーンを…」
或人「うわあー!お願いだからギャグを説明しないでー!
 
自分が考えたダジャレがAIに説明されるのを、或人は嫌がります。ダジャレを説明するのは、なぜ無粋な行為なのか。おそらく、ダジャレを説明すると、そのダジャレ自体の面白味が殺されてしまうからでしょう。
 

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(中略)どの文に置き換えたとしても、元の「旅することは生きることである」という文がもっていた独特の表情ーあるいは、面白味、味わい、色合い、趣き、詩情などと呼ばれるものーが完全に損なわれてしまうだろう。ジョークを解説することがまさにそのジョーク自体を殺してしまうことであるように、詩をパラフレーズして別の言葉に置き換えれば、その詩自体が台無しになってしまう。*2
 
「名刺を見つめる名シーン」というのはかなり寒いダジャレですが、このダジャレにも特有の面白味・味わい・趣きなどが一応備わっています。しかし、そのダジャレを説明すると、一連の面白味や味わいなどは損なわれてしまいます。なぜならダジャレの説明は言葉を別の言葉に置き換える行為でありそのダジャレのために選ばれた言葉が無粋にも入れ換えられてしまからです。
 

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ダジャレを理解するためにはそのダジャレの面白さを判定する感受性や、そのダジャレのために選ばれた言葉ならではの味わいを体験する能力が必要です。そうした感受性や体験が、第1話のイズには欠けているように思いますね。
 

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ここまで考えると、『仮面ライダーゼロワン』に登場する不破諌は、実に人間的な男に思えてくる。不破さんには、或人の寒いダジャレで笑えるくらいの感受性が備わっています。そして不破さんには、幼少期にAIに襲われた「体験」も備わっています(後にこの体験は捏造された体験だということが発覚しますが)。AIが苦手とする感情や体験が、不破さんの原動力です。だから不破さんは、AIとは違ってとても人間臭い男だと思います。
(C)2019 石森プロ・テレビ朝日ADK EM・東映
 
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仮面ライダーゼロワン』第1話では、或人が「お笑い芸人」であることが良い持ち味を出していると思います。第9話では、或人が「社長」であるという設定が活かされていると思いました。良ければ併せてご覧ください。

*1:古田徹也『言葉の魂の哲学』、講談社選書メチエ、二〇一八、七三頁。

*2:同上、八七~八八頁。