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『Maggot baits』レビュー~箱庭の中の蛆虫たち~

今回は、18禁ゲーム『Maggot baits』をレビューします。このゲームは、グロテスクな描写に満ちたグロゲーです。キャラクターの首や手足がもげたり、キャラクターが虐殺されたりする場面がしこたまあります。

 
私は少し前まで、18禁ゲームで一番グロい作品はブラックサイクの『EXTRAVAGANZA』だと思っていました。ところが『Maggot baits』は、『EXTRAVAGANZA』といい勝負なレベルのグロさでした。色々規制が厳しいであろうテン年代の日本で、よくもまあここまでグロい代物を出せたなあと思います。間違いなく遊ぶ人を選ぶゲームですが、それでも私は『Maggot baits』を薦めたい。なぜなら、このゲームのシナリオは本当に面白いから。

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『Maggot baits』
シナリオ:昏式龍也、栗栖
2015年11月27日発売
おすすめ度:★★★★★(グロ耐性があるなら、ぜひプレイして欲しい傑作)
 

箱庭の中の蛆虫たち

 

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このゲームの舞台は、「関東邪法街」という架空の都市です。関東邪法街は、暴力や強姦が当たり前のように行われる、退廃的な街です。この街は法律や規範が存在しない「無法」地帯と言うよりは、とある邪悪な黒幕によって支配されている「邪法」街です。関東邪法街といい、『眠れぬ羊と孤独な狼』の歌舞伎町といい、『虚空のバロック』のあかつき新都といい、昏式龍也さんのシナリオでは「都市」がテーマになっていることが多い気がします。
 
『Maggot baits』は、そんな邪法街でうごめく「蛆虫」たちの物語です。人生の目的や守るべきルールのような人間性を持たない者たちが、この作品では手足の欠けた「蛆虫」と呼ばれています。
 

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生まれてしまったものは生きねばならないー
 
命の始まりに存在する真実は、いつでもただそれだけだ。
 
指針ある人生、守るべき規範、善を成し悪を忌む精神など、すべては後付けで獲得していく理想という名の虚構でしかない。
 
だがそれらは、一般的に人間性と呼ばれる概念でもある。そうした虚構と共に生きてこそ、ヒトは初めて人間として認められるのだと。
 
では人間である条件とは、それらを十全に備えていることを意味するのだろうか? 人間の輪郭を示す、欠くべからざる四肢のように。
 
そしてそれらを失った者、あるいは自ら放棄した者とは、さしずめ手足の欠けた蛆虫とでも言うべきだろうか?
 
そうであるならば、この物語は人間を描くものでは決してない。
 
これは、蛆虫のための物語である。
私はこの出だしを読んで、このゲームのシナリオにメチャクチャ期待しました。私は今年の7月に『SWAN SONG』教会ENDを考察しましたが、あの結末には「人間は素晴らしい」という人間讃歌が込められていました。これに対して『Maggot baits』では、人間として認められない蛆虫への讃歌が提唱されるのかな?…と期待してしまったのです。だが、この作品はそうではなかった。私が読んだ限り、この作品は最終的には人間的な愛や思念を称賛する結末に行き着いたと思う。そこが少し残念でした。
 

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でも、このゲームに登場する蛆虫たちは魅力的な奴らでしたよ。人間をやめて蛆虫の化け物になることを選択し、ヒロインのキャロルを取り戻そうとした主人公・彰護。規範や指針もなく、ただ現在を生きる魔女たち。彰護に惹かれた良きライバル、ブライアン・マックール。このゲームが出した結論は結局人間讃歌だった(と思う)けど、その結論に至るまでの蛆虫たちの群像劇は、本当に面白かった。
 

3つのエンディングについて

 
このゲームには、3つの結末が用意されています。「血の収穫」ENDと「灰とダイヤモンド」END、それから「モンキー・ハウスへようこそ」END。
 

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「血の収穫」ENDは、虚淵玄の影響が色濃く表れた結末でしたね。途轍もない化け物になり、ハードボイルドを超越した透明な存在と化した彰護。回収されたキャロルの絶望。まどか☆マギカのイヌカレー空間を彷彿とさせる一枚絵。「血の収穫」ENDは、昏式龍也じゃなくて虚淵玄が書いたと聞かされても私は驚かない。
 

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「血の収穫」ENDではキャロルの絶望が描かれましたが、「灰とダイヤモンド」ENDではキャロルの希望が描かれています。私は「血の収穫」ENDの方が「灰とダイヤモンド」ENDよりも好きですが、灰とダイヤモンド」ENDが三島由紀夫の『金閣寺』に対するある種のアンチテーゼになっていることに気付いてから、この結末も好きになりました。
 

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「モンキー・ハウスへようこそ」ENDはひたすら愛がない乱交が行われるバッドエンドで、ストーリー性は特にないと思います。「血の収穫」ENDでは絶望はあっても愛に満ちた世界が描かれていて、「灰とダイヤモンドENDではそこまで愛に満ちていなくても希望のある世界が描かれていた一方、「モンキー・ハウスへようこそ」ENDは愛も希望もない結末だった…とは言えるかな。
 
 

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…最後になりますが、このゲームのシナリオはキリスト教と物凄く関係があります。まさかこういう作品でキリスト教の蘊蓄が披露されるとは思わなかったので、驚きました。異端審問官・ヴァレンティノス役の大凶魔神天誅さんの熱演はお見事。でも、何となくこの作品をキリスト教に詳しい人に薦めるのが怖い。根拠は無いけど、キリスト教に詳しい人がこの作品をプレイしたら怒りそうな気がするんだよな(苦笑)。
 
〈追記〉

amaikahlua.hatenablog.com

『Maggot baits』灰とダイヤモンドENDの考察を書きました。気合を込めて書いたので、ぜひ読んで頂きたい……。