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『逆転裁判 蘇る逆転』感想と考察~これは「オトナの世界の物語」だ~

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2005年9月15日発売
 

天才的なまでの完成度を誇る傑作

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久し振りに『逆転裁判 蘇る逆転』を再プレイした。逆転裁判』は、弁護士と検事が法廷で論戦を繰り広げる「法廷バトル」ゲームである。他のアドベンチャーゲームとは色んな意味で一線を画する個性的な作品なのだが、第1作の時点で「ゲームとしての面白さ」が完成されきってるなこれ、と思わざるを得ない。証人の証言をツッコミによって崩す快感、登場人物のフザけた名前や言動、冤罪のピンチから逆転する痛快なストーリー。逆転裁判 蘇る逆転』は、逆転裁判シリーズの「原点であり頂点」と呼ぶに相応しい作品だ。
 
逆転裁判 蘇る逆転』は、ゲームボーイアドバンスのソフト『逆転裁判1』に新たな第5話を追加した作品として発売された。逆転裁判シリーズの原点である『逆転裁判1』を強化したバージョンが、『蘇る逆転』である。『蘇る逆転』の完成度は、もはや天才的といっていい。『蘇る逆転』の物語は単にエンタメや推理小説として鑑賞しても見事な出来栄えなのだが、「オトナの世界」を描いたブンガクとしても面白く読めると私は思っている。これから、『蘇る逆転』を「オトナの世界の物語」として読み解いてみよう。
 

「オトナの世界の物語」としての『蘇る逆転』

第1話「はじめての逆転」の冒頭では、アウチ検事が被害者の高日美佳について、こう語っている。
 

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アウチ「どうやら彼女には、“パパ”がたくさんいたようです。

ヤハリ「……パパ?」
アウチ「お小づかいをくれるおじさんたちのことです。」
アウチ「彼女は、彼らから金を“援助”してもらって、遊んでいたワケだ。
 
私がウブだからなのかもしれないが、この会話はオトナ向けだなあ、少なくともコドモの世界を描いた会話じゃないよなあと思った。パパ」といい「援助(交際)」といい、コドモ向けゲームで語られる言葉じゃないよなあと思う。
 
第2話「逆転姉妹」では、板東ホテルのボーイがオトナ向けの発言をする。しかし、第2話で最も「オトナ」を感じさせるのは、主人公・成歩堂弁護士が小中の殺人を告発する場面であろう。
 

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ナルホド「今、ぼくがするべきなのは、あんたを追い詰めることなんだ。」
コナカ「……どういうことだい?」
ナルホド「千尋さんは、あなたのことを調べていた。」
ナルホド「そしてあなたは、梅世を使って千尋さんの電話を盗聴していた。」
ナルホド「……そして殺人事件が起こって、あなたの資料が消えた。」
ナルホド「さて、犯人は……?」
コナカ「…………」
ナルホド「コドモでもわかる。……あなただ!
 
成歩堂は、殺人事件の犯人が小中だということは「コドモでもわかる」と言っている。成歩堂は、明らかにコドモの理解力を低く見積もっている。そして成歩堂は、自分のことをコドモではなくオトナだと思っているだろうと推測できる。成歩堂はコドモの代弁者ではなく、オトナの弁護士なのである。
 

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第3話「逆転のトノサマン」は、普通に読むと重要度の低い茶番劇に思える。しかし、『蘇る逆転』を「オトナの世界の物語」として解釈してみたら、どうであろうか。第3話では、コドモ向けヒーロー番組「トノサマン」の製作現場の裏側が描かれる。第3話で一貫して表現されているのは、コドモ向け番組の裏側にある「オトナの事情」だと言って良いだろう。『蘇る逆転』を「オトナの世界の物語」として解釈すれば、オトナの事情を表現した第3話は、オトナの世界を物語る超重要エピソードとして再評価することができるのだ。
 

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成歩堂は第3話で、小学生の九太に「オトナの世界はキビシイんだぞ……!」と念を入れる。この場面では、成歩堂は自分がオトナの世界の住人であることを明確に認めている確かに、オトナの世界はキビシイものだ。しかし、オトナの世界はただ単にキビシイだけではないということが表現されているのが、第4話「逆転、そしてサヨナラ」である。
 

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第4話「逆転、そしてサヨナラ」は、「かつてコドモだったオトナたちの物語」として解釈できる。成歩堂はコドモの頃、学校の給食費を盗んだ疑いで学級裁判にかけられた過去がある。成歩堂は学級裁判で、味方がいない究極の孤独感を味わった。成歩堂はコドモの頃の自分をかばった御剣検事に再会するため、そして孤独な容疑者の味方になるため、弁護士になった。成歩堂はオトナになり、弁護士になることで、自分の希望を叶えたのである。
 

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御剣は父親を殺害され、父親を殺害した容疑者が無罪になったことをきっかけに、弁護士を憎悪して検事になった。御剣は性格が屈折したままオトナになった男なのだが、彼もまたコドモの頃のトラウマの影響でオトナとしての進路を決めたのである。そんな御剣は、法廷で成歩堂と再会してから性格を矯正していく。オトナだからこそできる経験があり、オトナになったからこそ矯正できる性格もある頑ななオトナもいるけどね…)
 
オトナになることは、キビシイことばかりではない。オトナだからこそ叶えられる夢があり、オトナだからこそ助けられる他人もあり、オトナだからこそ改められる心もあるのである。
 

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第5話「蘇る逆転」では、警察と検察のオトナの事情を描いたドラマが大ボリュームで描かれる。法廷で裁判官とガント局長がオトナの会話をしたりもする。狩魔豪といい、ガント局長といい、万才といい、御剣の上司は凶悪な人物ばっかりだ。第5話では成歩堂よりも御剣の方がピンチだったと思う。
 
以上のような形で、『蘇る逆転』は最初から最後まで一貫して「オトナの世界の物語」だったと解釈できると思う。おそらく、シナリオライター巧舟はそこまで意識的に書いていないだろうとは思う。しかし、『蘇る逆転』は「オトナの世界の物語」だという解釈には一定の説得力があると私は考えているし、今後ここまで「オトナの世界」を鮮やかに描いた逆転裁判は二度と出てこないのではないか。蘇る逆転』については色々語られ尽くされた感があるので、今回私は『蘇る逆転』をいささかひねくれた視点から解釈してみた次第である。