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「ポケモン!きみにきめた!」批評~遅刻から始まる冒険~

今回はTVアニメ版ポケモン第1話ポケモン!きみにきめた!」を批評します。この記念すべき第1話では主人公・サトシとピカチュウの出会いが描かれるのですが、今観ても面白いお話ですねー。特に、原作ゲームのシナリオとは大幅に異なる脚本なのに、観ていて抵抗無く自然に楽しめる」所がとても良いと思った。この第1話はようつべで公式無料視聴できますので、気になった人は上の動画を是非ご覧ください。

原作の奴隷にならない

1996年にゲームボーイのソフト『ポケモン赤/緑』が発売され、1997年にアニメ版ポケモンのTV放送が始まりました。ポケモンはゲームが原作になっていて、アニメ版はゲーム版から派生したコンテンツなのです。しかしアニメ版ポケモンは「原作ゲームの奴隷」にならず、アニメオリジナルの面白さを追求可能です。その事情の一端をこれから詳しく説明します。
 

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この第1話の冒頭では原作ゲームと同じBGMが流れ、ゲンガーとニドリーノが対戦する場面から物語が開幕します。マサラタウンに住むサトシは、オーキド博士からフシギダネヒトカゲゼニガメのうち一匹のポケモンを貰い、旅に出る予定になっていました。ここまでの展開は原作ゲームのシナリオと大体同じです。しかし第1話では「遅刻」というアクシデントが導入され、ストーリー展開がどんどん原作から逸脱していくんです。
 

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サトシは旅に出る当日に寝坊し、オーキド博士の研究所に遅刻して訪問します。フシギダネヒトカゲゼニガメは、遅刻せずにやってきた他の新人たちに三匹とも貰われていきました。そのためサトシは、オーキド研究所の問題児であるピカチュウを連れて冒険することになります。原作ゲーム『ポケモン赤/緑』は主人公がフシギダネヒトカゲゼニガメの中から一匹を普通に受け取る話になっていて、「ピカチュウと一緒に旅に出る」という選択肢は存在しません。ピカチュウと一緒に旅に出るという展開は、アニメ版が起源です。
 

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ピカチュウはサトシに対して反抗的な態度を見せる問題児で、モンスターボールの中に入ろうとしません。『ポケモン赤/緑』では、主人公が自分のポケモンを必ずボールの中に入れて携帯するという設定になっています。つまりピカチュウは、「主人公のポケモンは必ずボールの中に入る」という原作ゲームのルールを破っているのです。
 

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第1話の終盤で、サトシは自分の身を呈してオニスズメの大群からピカチュウを守ろうとします。ポケモン赤/緑』は「自分のポケモンがトレーナーの代わりに相手のポケモンと戦う」ゲームなのですが、アニメ版第1話は逆に「トレーナーのサトシがポケモンピカチュウのために体を張る」展開になっています。
 
サトシは遅刻してオーキド研究所に着いたことにより、原作ゲームからズレた冒険を始めました。メタ的なことを言うと、アニメ版ポケモン自体がゲーム版の発売から1年遅れて(遅刻して)放送され、原作のストーリー展開をずらしたと言えますね。遅刻は一般的には悪いことだと思われていますが、ポケモンというコンテンツは遅刻によって新たな一歩を踏み出したのです。
 

ポケモンアニメは「たしかな野党」!?

以上のあらすじで、この第1話が原作ゲームの戒律を破りまくる型破りなアニメだということが、大体伝わったかと思います。でも、この第1話を観終わっても、「このアニメ、原作ゲームと話が全然違うじゃん。こんなの原作レ○プだわ!!」と怒りたくなる気が、不思議なことに全然しないんですよね。中には怒りたくなった人も存在するかもしれませんが、そういう人はたぶん少数派だと思うよ(笑)。逆に、大方の人はサトシとピカチュウの絆の原点が描かれた、いい話だったなー」と思うでしょう。
 
ゲーマーMEXISSさんの記事を読んだ限り、ゲームがアニメ化した場合、原作ゲームよりもアニメがつまらなくなりがちらしい。なぜならアニメには放送時間の尺があるので、原作ゲームの豊潤な内容が区切られた時間にカットされなければならないからです。そしてゲームにはレベル上げやアイテム集めのようなプレイヤー参加型の楽しさがありますが、こうした楽しさをアニメでそのまま再現するのは難しい。ところがポケモンの場合、アニメが原作ゲームとはまた違った形で面白くなることがしょっちゅうあるんだよww
 
この第1話はしょっぱなから原作ゲームから逸脱した回で、原作とは違った面白さを追求してやろう」という制作スタッフの野心が推し測れます。アニメで原作ゲームの面白さをそのまま再現できないなら、アニメの内容を原作とは大幅に変えればいい。そして、原作とは別の面白さを視聴者に提供すればいいじゃん。たぶんアニメ版ポケモンはこういう大胆な発想で第1話以降も作られていると思うんですが、この「原作とはだいぶ違うアニメ」が原作厨に大して嫌がられずにずっと続いているのって冷静に考えて凄いよね。
 

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そしてアニメ版ポケモン放送から1年後の1998年に、ポケットモンスターピカチュウ版』が発売されました。ポケモン赤/緑』の内容がアニメ版に似せて改変されることによって、この『ピカチュウ版』とかいうゲームソフトは誕生しました。このソフトは主人公がピカチュウと一緒に旅立ち・ピカチュウをそのまま連れ歩き・その後のストーリー展開もアニメ版に似せてあります。ゲームから原作とは違った面白さのあるアニメが誕生し、さらにアニメが提案した面白さを取り入れた新しいゲームが誕生する…という、理想的なメディアミックスが実現しています。
 
アニメという媒体は、「原作の奴隷」になりやすいと思います。ゲーム・漫画・ライトノベルなどの原作は聖典のようなもので、原作付きアニメは聖典の戒律に隷属しがちです。しかしアニメ版ポケモン聖典の戒律を破りながら、原作とは別の面白さを今日まで発信し続けています。アニメ版ポケモンは原作の奴隷ではなく、時に原作に反抗して面白さの代替案を突き付ける「たしかな野党」みたいなもんだと私は思っています。
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