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減速主義バブル経済アニメとしての『妖怪ウォッチ』第11話「妖怪ムダヅカイ」

私はTVアニメ版妖怪ウォッチ第11話Aパート「妖怪ムダヅカイ」Youtubeで無料視聴し、大きな衝撃を受けた。なぜならこのアニメでは消費者の心理を1980年代バブル期まで減速させることにより、経済消費を加速させる」という、先鋭的な経済トリックが用いられているからである。
 

「無駄遣いが無駄にならない」お話

「妖怪ムダヅカイ」の冒頭では、ケータクマカンチの仲良し三人組がショッピングモールに行き、月刊ゴロゴロコミック』を買おうとする。ちなみに木澤佐登志によれば、きらびやかなショッピングモールは「幼少時代に触れていた在りし日の失われた消費文化」の象徴として、海外のミレニアル世代に親しまれているという。*1
 

しかしあろう事か、ケータ・クマ・カンチは、ショッピングモールを徘徊しているうちに、次々と無駄遣いを始めてしまう。クマが魚屋でクッソ大きなマグロを購入したり、カンチが変な形のストローを爆買いしたり、ケータがヘンテコな特典付きトイレットペーパーを買ったりと、三人の購買意欲や金銭感覚がおかしくなっていくぅ!
 

三人の少年たちに無駄遣いをさせていたのは、妖怪ムダヅカイの仕業であった。ムダヅカイは、バブル時代に散々無駄遣いした人々の欲望によって誕生した妖怪である。ムダヅカイはバブル期に誕生した妖怪なので散財することを心底楽しんでおり、しかも「無駄遣いすると景気が回復するから良い」という思想の持ち主である。
 

ムダヅカイ「あー、楽しかったな~バブルゥ!もうみんなキラキラしててさぁ。バブルバブルアーンド(?)イエエエエエイ!!*2
ケータ「あーいや、でも、無駄遣いは良くないよ。」
ムダヅカイ「なんで?みんなが無駄遣いすれば景気も回復して超ハッピーじゃん?
ケータ「だけど無駄遣いすると、本当に欲しい物が買えなくなっちゃうし、無駄遣いはやっぱり無駄なんじゃないかな?」
ムダヅカイ「無駄でいいじゃ~ん。楽しいじゃん、無駄ァ!
 
結局ケータ達三人組はムダヅカイの妖力と思想に根負けし、肝心の『ゴロゴロコミック』を買えずに無駄な物ばかり買ってしまった。しかし爆買いの特典として、三人はショッピングモールの福引き抽選券を手に入れた。そして福引きを行った結果、当たりが出て景品として念願の『ゴロゴロコミック』を彼らは獲得した。
 

ケータ・クマ・カンチ「やったあー!」
ケータ「無駄遣いが、無駄にならなかったぁ!
(一同大歓喜
 

「減速する心」と「加速する経済活動」の両立

はっきり言おう。この「妖怪ムダヅカイ」は10分にも満たない子供向けTVアニメなのだが、大人のお友達である私の胸のエンジンに火を付けまくるほどの重大な論点が多数含まれている。とりあえずこのアニメは、人間の心を過去に減速させることによって、経済消費を加速させたアニメ」だと言っておこう。
 

ムダヅカイは江戸時代や平安時代ほど昔ではなく、80年代バブル期という「エモい」時代に誕生した妖怪である。しかし2023年の今となっては、80年代は「40年ぐらい昔」の時代である。ムダヅカイは80年代のままの心意気で活動し続けており、現代人の心の時代を過去のバブル期に減速させる妖力を持っている
 

ムダヅカイの妖力は現代人の心を80年代に減速させるのだが、その一方で現代人の経済消費を加速させる。2010年代後半頃の日本論壇から、資本主義を加速させまくろうとする「加速主義」が台頭した。「妖怪ムダヅカイ」の場合、一見すると人々の心が過去に減速している」ように見えるのだが、それでいて人々の経済消費が番組放送後の未来のムーブメントを先取りして加速している」ようにも見える。
 
すげえww2014年放送の時点で目の付け所がすげえよこのアニメwww妖怪の力で「人間の心を減速させて経済活動を加速させる」なんて天才の発想だろwwwwイグノーベル経済学賞文学賞を両方授与したくなるレベルのオモシロ発明の域に達してるんじゃね??…って褒めすぎ???
 

これからの「加速主義」の話をしよう

ついでに良い機会なので、より一層時事的な話をしよう。昨年(2022年)は、「加速主義者が大衆にとても嫌われた年」だと私は評価している。イーロン・マスクCEOのTwitter買収事件と宮台真司氏の傷害事件を鑑みて、私はそうジャッジする。
 
イーロン・マスクは昨年、Twitter社を買収して世間を騒がせた。話によればマスクの旦那は何でもありのアプリ『X』を開発中であり、その『X』を作る速度を加速させるための加速装置」としてTwitterを利用してるっぽい。マスクの旦那は何を考えているのか読めない天才変人だが、とりあえず彼がTwitterを買収することによって敵を作りまくったことは確かであろう。
 
去年の日本では、『崩壊を加速させよ』という本を書いた加速主義者の宮台真司氏が、無職の男によって襲撃される事件も発生した。宮台氏はとても頭が良い社会学者なのだが、オウム真理教援助交際などの胡散臭い事件の評論で人気を得た。そして彼の論説はかなり挑発的で、顔の表情の作り方も正直かなり怪しげな御仁である。気軽に申し上げにくいことですが、宮台氏もマスクと同じように「恨みを買われやすい加速主義者」だというのが私の印象である。
 

妖怪ムダヅカイも人間の経済消費を煽っているという点では加速主義的であり、結局ケータ君とウィスパーがムダヅカイに良い印象を持たずにアニメは終幕した。しかしムダヅカイは「単調な加速」を促さない。なぜならムダヅカイは、「80年代への心理的な減速」も促しているからである。そういう点でムダヅカイは、マスクの旦那や宮台さん以上にある意味では「食えん奴」なのかも知れんなあ…と、私は思った。
(C)LEVEL-5/妖怪ウォッチ♪プロジェクト・テレビ東京
 
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「妖怪ムダヅカイ」が「減速させてから加速させる」アニメである一方、『劇場版仮面ライダーカブトGOD SPEED LOVE』は「加速してから減速する」特撮である。アニメ版『妖怪ウォッチ』脚本チームと米村正二は対照的な戦略の持ち主であり、しかし両者とも加速と減速を使いこなす技術者だと私は推測する。

*1:木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』、星海社新書、二〇一九、二一一~二一二頁。

*2:ムダヅカイの台詞はちょっと聴き取りづらかったので、誤字があったら申し訳無いです。