かるあ学習帳

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経済格差と『ZETMAN』~ホームレスのヒーローと超富裕層のヒーロー~

みんなー、『ZETMAN』っていう漫画を知ってるかい???
 

ZETMANは、絵がクッソ上手いことに定評がある漫画家・桂正和による変身ヒーロー漫画である。この漫画は累計400万部以上売れたらしい。さらにこの漫画は2012年にあまり話題にならなかったけどテレビアニメ化された。客観的な指標を当てにすると、『ZETMAN』は「爆発的なヒットはしなかったけど、一昔前にまあまあな知名度を誇った漫画」みたいなイメージが持たれているんじゃなかろうか。
 

ZETMAN』を私なりに一言で評すると、泥臭いくらいリアリティのある漫画」である。桂正和は記号のような萌え絵とは似ても似つかないほどに緻密で写実的な絵を描く漫画家である。そしてこの漫画の作中ではホームレスや富裕層の現実や登場人物の恋愛模様非常に生々しく描かれている。この漫画の内容はヒーローものにしてはあまりにも「世間擦れしすぎている」ので、虚構重視で世間擦れしてないヲタクにはウケが悪そうだなと思った(苦笑)。また、第4巻には女子高生が強姦される胸糞悪い場面があり、エログロに寛容な私が見ても「ウワア…これはキツいわあー」と思ったねw
 
ZETMANはこんな具合にイマイチパッとしない漫画なのですが、私は皆さんにこの漫画を読んで貰いたい。なぜならこの漫画は、ゼットマンに変身する主人公がホームレスだという設定が神がかっているから。で、もう一人の対になる主人公が超富裕層で、経済格差の描写が優秀なんやで、ほんま。
 

ホームレスのヒーローと超富裕層のヒーロー

ZETMAN』の主人公・ジンは、ゼットマンに変身する能力を持った人外の少年である。ジンを人工的に生成した神埼博士は整形してホームレスになり、ジンと一緒に追っ手から身を眩まして陰遁生活を送っていた。ジンは底辺層のボロ小屋で暮らしていたけど、人々から謝礼を貰ったりセクシーパブのお姉さん(明美の養子になったりしながら徳の高いイケメンに成長していく。ジンは貧困層で社会の現実を知りながら崇高な心身を養った完璧超として描かれている。
 

この漫画にはもう一人の主人公・コウガが登場する。コウガはアマギコーポレーションとかいう有名な会社のお坊っちゃで、子供の頃から輝かしい将来を約束されたセレブである。アマギコーポレーションはヒーロー番組『銀河超人アルファス』のスポンサーで、コウガは幼少期からアルファスに触れて育った。コウガは会社の財力と科学力を利用してパワードスーツを開発し、自ら装着して実在するアルファスに変身することに成功する。コウガも善良な男だけど世間知らずなので、会社の陰謀に巻き込まれているうちに操り人形として利用されていく。
 

で、ジンとコウガという対照的な経済力を持つ主人公に加えてエボル」とかいう怪人たちも参戦し、いかにもヤングジャンプ漫画っぽい感じの戦闘が繰り広げられる。この漫画のテーマは「正義とは何か?悪とは何か?」だと一般的には言われているのですが、それ以上にどう見ても経済格差」が軸になっている作品だと私は思っている。ホームレスのヒーロー・ジンと超富裕層のヒーロー・コウガを連立させることにより、経済格差の本質を描いたガチ社会派ヒーロー漫画ですよ、これわあ!
 

格差社会をマクロレベルで掌握する

この漫画は社会派なので、俺も社会派ぶったことを書いておこうかな。
 

ZETMANゼロ年代初頭の2002年にヤングジャンプで連載が始まった漫画で、2002年は小泉純一郎が首相だった。小泉政権官から民へ」の政策を打ち出し、郵政や道路公団とかを民営化したことで知られている。アメリカの同時多発テロ小泉内閣ネオリベ構造改革により、この頃から日本の格差社会化が進み始めた。で、ゼロ年代の激化する生存競争が反映されたヒーロー作品として仮面ライダー龍騎がよく挙げられる訳だが、このZETMAN』は「格差社会自体の構造」をマクロレベルで表現しているように私には感じられた。
 
ゼロ年代から経済格差が表面化し始めたので、当然ホームレスも日本で増えていく。生田武志『〈野宿者襲撃〉論』(人文書院、2005)によると、2001年ぐらいからホームレスがガソリンで放火されるような宿者襲撃事件が激化するようになったっぽい。社会の生存競争が激しくなるとホームレスのようなルーザーが続出し、ルーザーたちは社会の鼻つまみ者として襲撃されていく。したがって『ZETMAN』の主人公がホームレスだというのは、泥臭いながらも先鋭的なセンス溢れる設定だったといえよう。
 

ゼットマンは金儲けに利用しづらい

私が『ZETMAN』序盤のハイライトだと思う場面は、第11話のクリスマスの場面である。セクシーパブに勤める明美の家から家出した少年期のジンは、町のオモチャ屋で『銀河超人アルファス』のオモチャが売られているのを見付ける。アルファスは善良なヒーローで通っているのだが、所詮アマギコーポレーションというスポンサーによって提供された「虚構」でしかない。ジンは子供の時点で貧困層底辺の現実を直視しているので、ヒーロー番組のキャラを「ありえねェ」の一言で一蹴した。
 
仮面ライダーにしろスーパー戦隊にしろウルトラマンにしろ、大抵のヒーロー番組はバンダイやエイベックスのような資本家に出資された虚構である。そのため、ヒーロー番組のキャラはオモチャなどのグッズを会社が売って儲けるための広告塔になりがちである。わりかし最近の仮面ライダーでは主人公が無職だったり黒幕が資本家だったりすることは多いけれど、仮面ライダーバンダイに利用され続けている。しかしZETMAN』は漫画なのでスポンサーの金儲け臭さが希薄だし、ジン=ゼットマンがホームレスなので非常に金儲けに利用しづらい。だからこの漫画はあまり売れなかったのかもしれないな(苦笑)。
 
ZETMAN』の作者である桂正和は、TIGER&BUNNY』とかいうアニメのキャラクター原案も担当している。TIGER&BUNNY』に登場するヒーローはスポンサーと契約していて、ソフトバンクバンダイみたいに財力がありそうな企業の広告を身体中に貼り付けている。つまりホームレスのジン=ゼットマンは「スポンサーに無縁なヒーロー」である一方、『TIGER&BUNNY』の虎徹さんとかは「スポンサーの看板を掲げるヒーロー」という、対照的な関係になっているのだ。TIGER&BUNNY』でも資本家やマスメディアとヒーローの関係が上手に描かれているので、『ZETMANと併せて鑑賞するとより社会派ぶったことが言いやすくなるのでオヌヌメである。ちなみに俺はタイバニはTV版一期しかまだ観てないww←
 
令和の日本では富裕層と貧困層の二極化がクッソ進んでおり、はてなブックマークでもホームレスに関する記事が最近よくバズッている。今の日本は富裕層陣営と貧困層陣営に分断された構図になりつつあるので、かなり現実が実質『ZETMANに近付いてる感じがする。
 
みんなー、俺がここまでべた褒めしてるんだから『ZETMAN読みたくて堪らなくなったよなあ!???
胸のエンジンに火を点けろ、今こそ『ZETMAN』を推すんだああああああステマ乙)
 
(C)Masakazu Katsura 2003~2014

劇場版仮面ライダービルド暗黒啓蒙~民主主義と平等主義による「天才いじめ」を告発せよ!~

「民主主義」「平等主義」という言葉には、多くの人々の間で未だにかなり良いイメージが持たれている……気がする。
 
しかし、果たして民主主義と平等主義は、人々を本当に幸せにする考え方なのだろうか?本稿では劇場版仮面ライダービルドBe The One』(以下、劇場版ビルド)ニック・ランドの『暗黒の啓蒙書』を教材にして、民主主義と平等主義の恐ろしさを考察していきたい。劇場版ビルドは、民主主義と平等主義による「天才いじめ」を描いた、クッソ面白恐ろしい特撮映画だから。
 

民主主義で、地球をぶっ壊す。

劇場版ビルドの序盤では、東都・西都・北都とかいう架空の都市の都知事が就任演説をする。特に都知事の伊能はカリスマ的な人望の持ち主なのだが、この国に仮面ライダーは必要無い」という過激思想の持ち主であった。『仮面ライダービルド』の作中では仮面ライダーが軍事兵器として運用されているので、仮面ライダーを殲滅して日本を平和にしようぜ!と伊能は力説する。
 

伊能「仮面ライダーは戦争の兵器です。皆さんは戦争によって、多くのものを失いました。仮面ライダーこそが、我々を苦しめた元凶なのです!特に仮面ライダービルドは、かつて国家反逆罪が適用されながら、いまだに我が国を跋扈している凶悪な存在です。そんなビルドを、野放しにしていいんですか!」
 

この伊能って人、えらく仮面ライダーを敵視してるな……過去にライダーに嫌な目に遭わされたのかな?とか思われそうですが、実態はもっとえげつなかった。都知事の伊能、西都知事郷原、北都知事の才賀の正体は全員、悪の地球外生命体「ブラッド族」だったのである!ブラッド族は三人の知事に擬態して日本の政治を操り、地球をぶっ壊そうと企んでいたのである。
 

ブラッド族は地球を滅ぼそうと企んでいるので、その際には正義の味方仮面ライダーが邪魔である。なのでブラッド族は政治家に擬態して民衆の支持率を増やし、マスメディアや異能力も利用して大衆を洗脳した。つまりブラッド族は民主主義社会のシステムをずる賢く悪用し、仮面ライダーに対する民衆のヘイト感情を増やそうとしたわけだ。
 
民主主義社会では、民衆の支持によってお偉いさんが選出される。と言うことは嫌な言い方をすると、民衆の支持を集めるのが上手ければブラッド族のように腹黒い人物でもクッソ偉くなれるのである。コミュニケーション能力が高い詐欺師やナンパ師は民衆の支持を集めて政治家になりやすいし、テレビやようつべで人気者になった有名人には票が集まりやすい。人々に賄賂を配って選挙に当選するのも有効な戦略だろう。ニック・ランドは2012年の時点で、この辺のからくりを批判していた。
 

ニック・ランド(1962~)

選挙で勝利を収めることは圧倒的なまでに票の買収に左右される問であり、(教育やメディアといった)社会にたいする情報提供機関はもはや、有権者にその力がないのと同様、政治家たちの贈収賄を抑止する力をもっていない。したがって倹約につとめるような政治家は、たんに競争力のない政治家を意味することになり、そしてそうした不適合者は、ダーウィニズムの民主主義版によって遺伝子プールから排除されることになる。」*1
 

天才ゆえ孤独ですね、カッケーっ!

仮面ライダービルドに変身する主人公・桐生戦兎は、最高のIQを持つ天才物理学者である。戦兎は洗脳された大衆とブラッド族に単騎で戦いを挑み、仮面ライダービルドジーニアスフォームに変身した。ジーニアスフォームは天才物理学者と天才科学者の英知によって開発された姿で、地球外生命体と互角に()戦うための機能が搭載されている。こう書くとジーニアスフォームはクッソ強いんだろうなと思われそうですが事態は逆で、ロクな見せ場に恵まれていないのである!
 
ジーニアスフォームは天才の本領が発揮された最強の姿なはずなのだが、ブラッド族のエボルトが変身した仮面ライダーエボルが強すぎるので、TV本編では劣勢に立たされることが多かった。これで劇場版で見せ場があったら多少は成仏できるけれど、ジーニアスフォームは劇場版でも大衆を率いるブラッド族に無惨な形で敗北した。
 

ブラッド(伊能)「ハッハッハッハ…つらい、つらいなあ。こんなに体を張っても民衆から非難され、罵声を浴びるんだからなあ!
民衆「殲滅、殲滅、殲滅!殲滅、殲滅、殲滅!
 
戦兎はIQが異様に高い切れ者だし仮面ライダーに変身できるので、ブラッド族の伊能にとっては極めて「厄介な人間」である。そして大衆は政策の善悪を見極めるリテラシー能力に恵まれていないので、ブラッド族の詐術に引っかかって戦兎を悪者だとみなした。戦兎はTV本編でも、苦悩と不幸に満ちた人生を送る天才として描かれている。ちなみに現実世界でも、大多数の凡人よりも不幸な天才はクッソ多いというのは有名な話である。
 
例えばみぞのりほさんは戦兎のように知能が発達しており(IQ180)、高度な身体能力にも恵まれた女性である。みぞのさんは他の凡人よりも優秀なので、中学時代から他人からやたらと仕事を押しつけられ、疲れて不登校になった。その後もみぞのさんは躁鬱・退学・パワハラいじめで精神崩壊などの末、最終学歴は7浪で明治大学卒業」である。ようつべには他にもIQが高すぎて社会性を身に付けられない不幸な天才青少年の動画がいっぱい見付かるから、気になる人は調べてくれよな☆
 

ニック・ランドは、民主主義のみならず平等主義も否定している。「人類みな平等」というのは絵に描いた餅のような机上の空論であり、全ての人間は生まれながらに様々に異なっている。人間のIQも人それぞれにバラバラであり、IQが高すぎる天才は「変人」として嫌がられやすく、逆にIQが低すぎるDQNは「馬鹿」だと罵られやすい。天才物理学者の戦兎と「猿より頭が悪い」と噂される荒くれ者の万丈は大衆の中で孤立した末、劇場版の終盤で「天才とおバカの合体変身」に成功した。厄介な天才と厄介なおバカはいずれも社会の煙たがられ役だという点では、同じ穴の狢である。
 
したがって劇場版ビルドの『Be The One』とかいう題名には、「天才とおバカは一つだ(紙一重だ)という皮肉めいた意味合いが込められていると私は解釈している。
 

「『社交的な人間たち』はつねに厄介な連中に難癖をつけ、たいていはそうした者たちと結婚したり一緒に仕事をしたりすることを拒み、集団での活動や重要なポストから彼らを締めだして、中傷的な名前をつけ、彼らをのけ者にして近寄ることがない。*2
 

ジーニアスいじめは止まらない

劇場版ビルドは、民主主義と平等主義による「天才いじめ」を告発した傑作である。悪い詐欺師ペテン師ナンパ師たちは、大衆を上手いことコントロールして、自分に都合の悪い切れ者民主的な」多数決で潰そうとする。そしてIQが少数の厄介者たちは「平等な」人間像から逸脱しているので、凡人たちによって排斥されるのだ。
 
さあ、仮面ライダーが大好きな子供達大人のお友達のみんな、わかってくれたかな???
民主主義と平等主義が悪魔合体すると、多数派が少数のIQの持ち主を差別し潰すのにとっても便利な、危険社会が生まれるんだよ☆☆☆(o^O^o)☆☆☆
 
劇場版「ビルド・ルパパト」製作委員会(C)石森プロ・テレビ朝日ADK東映(C)2018テレビ朝日東映AG・東映

*1:ニック・ランド(五井健太郎訳)『暗黒の啓蒙書』講談社、二〇二〇、二五頁。

*2:同上、一六八頁。

『ルリドラゴン』のココがスゲェ。

最近、ヲタクの間で『ルリドラゴン』とかいう漫画が話題になっているっぽい。
私の感触では、この漫画の内容よりも、この漫画がいきなり無期限休載になったことが大きな話題を呼んでいると思う。『ルリドラゴン』は今年の6月に週刊少年ジャンプで連載が開始され、ユルい作風と好感の持てる作画でヲタクの注目を浴びた。しかし作者の眞藤さんが8月に早くも体調を崩したので、今日に至るまで連載がストップしている。『ルリドラゴン』は第1巻しか発売されていないまま休眠中だが、この1巻の売れ行きは非常に好調だと評判である。ルリドラゴン』の今後……わたし、気になりますっ!。
 
『ルリドラゴン』第1巻の裏表紙には、「ドラゴンガール・ルリの日常がゆるっと始まる。」と書いてあった。で、私が読了した所、確かにこの漫画の雰囲気はユルいなと思った。しかしこの漫画は、他の作品以上に攻めたストーリー展開をユルい衣で包んでいるとも俺は思うね。今日は『ルリドラゴン』のスゴい所をネタバレ全開で書いちゃうもんねっ!
 

『ルリドラゴン』

眞藤雅興
2022年10月9日
(C)Masaoki Shindo 2022
 
(以下、ネタバレ全開です)