かるあ学習帳

この学習帳は永遠に未完成です

文学

『仮面ライダードライブ』第12話の『箱男』的物語構造

『仮面ライダードライブ』第12話「白い仮面ライダーはどこから来たのか」は、仮面ライダーシリーズ屈指の神回だと私は評価している。 この12話では2号ライダーである「仮面ライダーマッハ」が正式にTVでお披露目され、物語の新章が始動する。さらにこの12話…

大江健三郎『洪水はわが魂に及び』考察:急~不条理と抵抗と最後の挨拶~

この世界は不条理であり、この世界の不条理を直視できない者は不条理から逃げている。われわれは不条理な運命を見つめ、引き受けなければならない。そして不条理と戦うことを諦めず、暗夜を生き抜かなければならない。人生が無意味で不条理でも、その中で諦…

大江健三郎『洪水はわが魂に及び』考察:破~DQNと縮む男と全集中の祈り~

youtu.be 大江健三郎はノーベル文学賞受賞者であり、日本文学の最高峰に位置する小説家である。彼の大作長編『洪水はわが魂に及び』は、人類には早すぎた想像力で描かれた物語である。この小説は1973年に発行された作品なのに、ここ最近の令和の世相すら予言…

大江健三郎『洪水はわが魂に及び』考察:序~核と洪水と世界の終わり~

大江健三郎は日本で2人目のノーベル文学賞受賞者である。大江さんは大作小説『洪水はわが魂に及び』を執筆し、野間文芸賞を受賞した。しかしこの『洪水はわが魂に及び』、ちょっと手に入りにくい本なのである。それでもこの小説には名作の予感が漂っていたの…

諏訪哲史『アサッテの人』メタ意識の節度を考えるための書評

諏訪哲史の『アサッテの人』は、村上龍の『限りなく透明に近いブルー』以来31年ぶりに群像新人文学賞と芥川賞をダブル受賞した小説である。しかし私が読んだ限り、『アサッテの人』は『限りなく透明に近いブルー』とは多くの点で対照的な作品だと感じた。『…

村上龍『限りなく透明に近いブルー』考察という営みを批判する考察

今回は、村上龍のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』を考察する。本稿は単なる考察ではなく、「考察という営みを批判する考察」である。『限りなく透明に近いブルー』は主人公・リュウの「観察」に基づく小説であり、露骨に考えさせられるようなメッセ…

三島由紀夫『午後の曳航』あらすじや解説みたいなもの

文豪・三島由紀夫は、三十三歳で結婚した。しかし三島の面白いところは、結婚しても小説の作風が丸くならず、相変わらず「攻めた」活動を続けたところである。『不道徳教育講座』という不謹慎な本を書いたり、映画の主演をしたり、『宴のあと』という小説を…

物語に「ストーリー性」は絶対必要なのだろうか?

note.com note.com 物語に「ストーリー性」は絶対必要なのだろうか。本稿で言うストーリー性とは、物語の構成や筋書きのような「骨組み」のことだと思って欲しい。例えばドストエフスキーやトーマス・マン、宮沢賢治の代表作には数理的なまでに計算された構…

中村文則『悪意の手記』感想や解説みたいなもの

中村文則は、「土の中の子供」と大体同時期に『悪意の手記』とかいう小説を世に送り出した。「土の中の子供」は芥川賞受賞作なのだが、『悪意の手記』は何の賞も受賞していない。しかし、「土の中の子供」よりも『悪意の手記』の方が面白いと私は感じた。な…

中村文則「土の中の子供」感想や考察みたいなもの

「土の中の子供」は、中村文則の芥川賞受賞作である。中村文則は日本人初のDavid L. Goodis賞受賞者であり、ウォールストリートジャーナルで絶賛されてもいて、海外での評価が高く優秀な作家である。しかしその割には、日本における彼の存在感はちょっと地味…

サルトル『嘔吐』考察や解説みたいなもの

『嘔吐』は、サルトルとかいう昔流行った文豪の代表作である。この小説は現実世界の偶然性を表現していることで有名なのだが、フィクションの必然性を表現した小説でもある。私の個人的な興味では、現実世界の偶然性よりもフィクションの必然性の方に惹かれ…

大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』感想や解説みたいなもの

『M/Tと森のフシギの物語』 大江健三郎 岩波文庫 2014年9月17日発行 河合隼雄(1928~2007) 母性はすべてのものを全体として包みこむ機能をもつのに対して、父性は物事を切断し分離してゆく機能をもっている。*1 河合隼雄によれば、母性は「全体として包む」性…

宮沢賢治「よだかの星」のあらすじと解説(改訂版)

今回は宮沢賢治の名作「よだかの星」を考察します。子供向けの柔らかい文体で書いてある割には何となくわかりにくい宮沢賢治の小説を、早速分析していきましょう。 「よだかの星」(『銀河鉄道の夜』所収) 宮沢賢治 新潮文庫 1989年初版発行 あらすじ では…

「インテリがアイドルを研究し、アイドルが文学者になる時代」の誕生。

エンタメ消費の高レベル化が止まらない kansyomazo.booth.pm note.com ここ最近になってから、オタク文化評論界隈の高学歴化が急激に加速していると思う。例えば「大阪大学感傷マゾ研究会」「早稲田大学負けヒロイン研究会」とか言った「研究団体」が、Twitt…

萩原朔太郎「ばくてりやの世界」解説

萩原朔太郎ってどんな人? 萩原朔太郎は日本の代表的な詩人です。朔太郎は前橋中学を卒業した後で熊本の五高、岡山の六高、慶応大学に入学しては退学を繰り返した経歴を持ちます。色々な事情で大日本農学校、京都大学、早稲田大学に入学するのに失敗したこと…

カミュ「シーシュポスの神話」のあらすじと解釈

フランスのノーベル賞作家カミュは、「シーシュポスの神話」という短い寓話を書きました。「シーシュポスの神話」は、人生が上手く行っていない人に読んで貰いたいお話です。上手く行かなくても、人は(たぶん)幸せになれます。 「シーシュポスの神話」(『…

大江健三郎『人生の親戚』感想とか解説とか

『人生の親戚』 大江健三郎 新潮文庫 1994年8月1日初版発行 悲しみ、それは人生の親戚。 この小説には『人生の親戚』という不思議な題名が付いていますが、人生の親戚とは一体何なのか。この小説では、悲しみとは「どのような境遇にある者にもつきまとう、あ…

村上龍『69 sixty nine』書評~徹底化された反骨精神~

『69 sixty nine』 村上龍 文春文庫 2007年8月10日初版発行 反権力な自伝的小説 『69』は、1969年に高校生だった村上龍のまわりで起こった事の一部を描いた小説です。この小説の登場人物は、ほぼ全員が実在の人物だそうです。つまり『69』は、村上龍の自伝の…

大江健三郎『個人的な体験』終幕の考察

『個人的な体験』 大江健三郎 新潮文庫 1981年2月25日初版発行 俺たちに翼はない 『個人的な体験』の主人公・鳥は自分の息子が障害児であることに絶望し、現実から逃げようとしました。しかし鳥は終幕で現実に帰る決心をし、責任を持って息子を育てることに…

大江健三郎『個人的な体験』の解説とか感想とか

ノーベル賞作家・大江健三郎は、知的障害のある息子・光の父親です。頭部に異常のある息子が誕生した時の大江氏のショックは凄まじかったらしく、体がうつぶせのまま動けなくなったこともあったとか。大江氏と『個人的な体験』の主人公は同一人物ではありま…

ミヒャエル・エンデ『モモ』を最後まで読んだ。

『モモ』 ミヒャエル・エンデ(大島かおり訳) 岩波書店 1976年初版発行 「時間節約」批判 ミヒャエル・エンデの『モモ』には、「灰色の男たち」という不気味な侵略者が登場します。灰色の男たちは巧みな弁舌で町の人々をまるめこみ、時間を節約するよう説得…

ミヒャエル・エンデ『モモ』第二部を読んだ。

前回は『モモ』第一部の感想を書いたので、今回は『モモ』第二部の感想を書きます。今回は構成の都合上、『モモ』の重大テーマである「時間の節約」について書くことができませんでした。時間の節約については次回書く予定です。 『モモ』 ミヒャエル・エン…

ミヒャエル・エンデ『モモ』第一部を読んだ。

先月、NHKEテレの「100分de名著」で、『モモ』という児童文学が取り上げられました。で、試しに『モモ』を読んでみたのですが、かなり読み応えがありました。この本の対象年齢は「小学5,6年以上」らしいのですが、小学校高学年でこのお話を理解するのは難し…

大江健三郎「死者の奢り」のあらすじと解説

「死者の奢り」は、大江健三郎の文壇デビュー作です。大江は『文学界』に「死者の奢り」を発表し、作家としての活動を本格的にスタートしました。 「死者の奢り」(『死者の奢り・飼育』所収) 大江健三郎 新潮文庫 1959年初版発行 (この記事はかなり長くな…

個人的に好きになれない名作『コインロッカー・ベイビーズ』

『新装版 コインロッカー・ベイビーズ』 村上龍 講談社文庫 2009年初版発行 私は、村上龍の小説『コインロッカー・ベイビーズ』が好きではありません。どちらかと言うと嫌いです。なぜなら、この小説の想像力は「ダサい」とまでは思いませんが悪い意味で「古…

【疫病の文学】大江健三郎『芽むしり仔撃ち』解説

最近、新型コロナウイルスの影響で、カミュの『ペスト』がよく読まれているらしい。『ペスト』はアルジェリアのオランの町にペストが流行し、閉鎖された町の中でもがく人々を描いた小説である。疫病が現実の社会で流行しているため、疫病を描いた文学の需要…

大江健三郎「奇妙な仕事」解説(後編)

「奇妙な仕事」の主人公「僕」たちは、一五〇匹の犬を殺すアルバイトを引き受けます。この物語を読み始めると仕事の内容の奇妙さに面食らいますが、読んでいるうちに、大江さんが表現したいことを伝えるためにはこのシチュエーションこそ相応しい…と思えてく…

大江健三郎「奇妙な仕事」解説(前編)

大江健三郎は、東京大学在学中に処女作「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞しました。文芸評論家・平野謙が「奇妙な仕事」を高く評価し、大江は学生作家として文壇にデビューすることになります。さて、「奇妙な仕事」とは一体どんな小説なのでしょうか。 「…

大江健三郎『燃えあがる緑の木』解説~喜びを抱け、人間は破壊されない~

さらに私の耳にはいまも私たちみなが未来に向けて唱和した言葉が鳴っているのだ。 ーRejoice!(第三部p.412) 『燃えあがる緑の木』の作中では、“Rejoice!”という言葉が愛唱されます。新潮文庫版『燃えあがる緑の木』の表紙にも、“Rejoice!”とデカい字で書いて…

大江健三郎『燃えあがる緑の木』第三部のあらすじと解説

今回は、大江健三郎の代表作『燃えあがる緑の木』第三部のあらすじと解説を掲載します。壮大な『燃えあがる緑の木』の物語は、この第三部で完結します。第三部は物語の起伏が激しく、なおかつメッセージ性にも富んでおり、ラストに相応しい内容でした。 『燃…