僕は、チョコレートを味わうことが好きだ。
そして僕は、チョコレートは口に入れるだけじゃなくて、 目で見ることによっても味わえるものだということを知っている。
だから僕は、チョコレートを口に入れる前に、 舌で転がすようにじっくりと目で味わうことにしているんだよ。
…では手始めに、僕はストレスを軽減するために、 GABAを味わうことに決めた。
でもおかしいな、 なぜこのチョコレートは直方体のような形をしているのだろう?
僕の記憶が正しければ、 昔のGABAは完全な球形をしていた気がするのに。
(気のせいだろうか。)
球体は良い、 なぜなら僕たちの住み慣れた惑星も球形をしているから。
でも構わないよ、 だって直方体には直方体なりの使い道があるからだ。
…僕は積み木遊びに熱中する子供のように、 直方体のGABAを積み重ねて塔を作ろうと思った。
しかし一つ一つのGABAは完全な球体でなく、 完全な直方体でもなかった。
だから一つのGABAにもう一つのGABAを乗せると、 GABAはすぐに崩れ去り散らばってしまうのだ。
そして散らばったGABAたちはキティちゃんの愛に導かれるかの ようにして、せわしなく行進を続けていく!
なぜだ、なぜだ、なぜなんだ?
なぜこの世界は僕にキュウケイを拒むのか、 なぜGABAの一粒ですら僕の目論見を拒むのか!
…僕は全てのGABAを食べ終わり、 白い皿にはキティちゃんだけが残った。
キティちゃんは愛を与え、 Helloという挨拶を与え続けている。
そしてGABAは僕の肉体に消化され、僕の肉体はγ- アミノ酪酸に満たされる。
雪が溶けた後で大地が現れ真理が現れるように、 僕の体内でGABAが溶けた後には詩片が現れる。
さあ、ここからが本番だ。
…ああ、明治ホワイトチョコレート、 お前の存在はあまりにも白くて贅沢すぎる。
今のこの宇宙は暗黒に満ち、 それでいて飢えに苦しみ悶えているというのに、お前は!
この宇宙の底知れぬ腹黒さを凝視せよ、 この宇宙の底知れぬ渇望を凝視せよ。
無限の暗黒を凝視したる後に日常の明治の白き贅沢に立ち返れ、
何度でも僕は言う、
明治ホワイトチョコレート、 お前の存在はあまりにも白くて贅沢だ。
それに加えて悪魔たちはこう囁いた。
「コノ白キ処女を凌辱セヨ」
…僕は悪魔たちの囁きに促されるかのようにして、 明治ホワイトチョコレートの外装を引き裂いた。
そして僕は引き裂いた先に見える更に白いカタマリに戦慄する。
しかしこの更なる白さ、更なる美しさは最早、あまりにも・ あまりにも・あまりにも贅沢だ。
今、宇宙は暗黒であり、贅沢は敵だ!
…僕は明治ホワイトチョコレートを乱暴に食い散らかした。
物語を終わらせ、新たなる詩を始動させるために。
ホワイトチョコレートが去った後は、 宿る肉体を失った幽霊の外套のような、銀紙が残された。
…アポロチョコレートたちは、 天井に先端を向けながら行儀よく並んでいた。
アポロたちよ、君たちは天井に向かって飛びたいね。
天井に向かって飛んで、天井を突き破って空に飛んで、 大気圏を突き破って宇宙に飛んでいきたいね。
でも、白くて四角い皿と黒くて得体の知れない重力が、 アポロたちをフジツボみたいに留めてじれったいね。
少なくともとてもじれったいよ、僕は!
ああアポロたちよ、 君たちはイチゴ味のしない下半身の黒いチョコレートを自分の身か ら切り離し、イチゴ味の香ばしいピンク色の円錐として飛翔せよ!
ピンク色のアポロの円錐たちよ、君たちは天井を破り、 宇宙へと飛翔せよ、
さすれば宇宙空間はピンク色の発光体で満たされる。
黒い宇宙に、白い光は最早贅沢だから。
ピンク色の発光体こそ、黒き宇宙を染め上げるのに相応しい。
…僕はキャラパキ発掘恐竜チョコの袋を戸棚から取り出した。
この袋の中には恐竜の形をしたチョコレートが入っている、 しかしどんな恐竜が入っているのかは開けてみないとわからない。
しかし恐竜が入っていることは明らかなので僕に不安は無い。
あるのは、竜に対する恐れだけだ。
…僕は王道を行くティラノサウルス型のチョコを期待していたが、 世界は僕の人生に王道を許さなかった。
袋の中に入っていたのはステゴサウルスだった、 この奥ゆかしき草食の竜よ!
世界が僕の人生に王道を許さないのは今に始まった話ではない、 だから僕が相手取るのはティラノサウルスではないのだろう。
…僕は白いステゴサウルスのチョコだけが残るように、 慎重に周囲の黒いチョコを引き剥がしてゆく。
ああ、黒き土よ、黒きアンモナイトの化石よ、 お前らの存在は贅肉だ!
詩片に贅肉は必要無い、恐竜の化石に贅肉が必要無いように。
ステゴサウルスのチョコから全ての黒いチョコを引きちぎるのは実 に難しい、
でも僕は引きちぎってみせるさ!
なぜなら、全ての無駄なものを引きちぎって生まれるものこそが、 僕の求める詩片なのだから。
完