初恋、結婚、出産……そして「VR結婚式」へ
『新妻LOVELY×CATION』の主人公( 名前はプレイヤーが自由に決められる)は、文具メーカー「 イナミ」で働くサラリーマンである。 主人公は仕事をしているうちに、保育士の愛子・女子校生の雪・ ウェイトレスの乃々と接点を持つようになる。 プレイヤーはこの三人の中から一人の「嫁」を選択し、 新妻にするのである。
このゲームの内容は「初恋編」と「新妻編」の二つに大別される。 前半の「初恋編」は主人公と「嫁」のなれ初めを描いており、 どの「嫁」を選んでもストーリーがそこそこ面白い。「初恋編」 のラストでは主人公とヒロインが結婚し、後半の「新妻編」 に突入する。「新妻編」 のストーリーはどれも退屈でつまらないのだが、 新妻とひたすらイチャイチャするのがこのゲームの目的だろうから 俺は許すぞ。
このゲームのシステムの面白い所は、「 主人公が嫁のために自分を磨く」 システムになっている所であった。 主人公はレジャープールやショッピングモールなどに行って運動や 買い物をし、自分の体力や知性などを磨いていく。「 男にとって都合が良い嫁が向こうからやってくる」のではなく、「 男の方から嫁に合わせて自分を向上させる」のが、 このゲームの方針である。現代ではアレな言い方かもしれないが、 実に漢気があるシステムだなと私は思った。
このゲームの公式サイトでは、「アペンドストーリー」 とかいう追加データをダウンロードできる。 アペンドストーリーでは、主人公の「嫁」 が子供を出産するまでの過程が描かれる。「初恋」と「新婚」に「 出産」を加えるのが、アペンドストーリーの狙いなのだろう。
私はこのゲームをプレイし終わって、「このゲームは、 内向的なヲタクに自己鍛錬と婚活を勧めるためのゲームなのかな? 」と思った。しかしこのゲームの実態は、言う程「健全な」 ものではなかった。
……なぜならこのゲームの制作スタッフは、ヲタク達を「 VR結婚式」に招待したからさ!!!
架空の「嫁」との「VR結婚式」
この『新妻LOVELY×CATION』 とかいうゲームの制作スタッフは、2017年に「VR結婚式」 を開催した。そして『新妻LOVELY×CATION』 をプレイした一部のヲタク達は東京都内に実在する結婚式場に招待 され、ゲーム内の「嫁」と挙式したのである!
ヲタク達はVR結婚式の式場で正装に着替え、 VRヘッドセットを頭部に装着した。 するとヲタク達の目の前には、 最新鋭のヴァーチャル技術で投影されたゲームの中の「嫁」 が現れる。そしてヲタク達は牧師の立ち会いの下、ゲームの中の「 嫁」と婚約した。
……ついでに付け加えておこう。パッケージ版『 新妻LOVELY×CATION』の中には、ゲーム内の「嫁」 と結婚するための「婚姻届」が同梱されていた。また、「嫁」 との婚約指輪も、期間限定受注生産で販売されていた。
仮想現実で展開される「異次元の少子化対策」
では、今回の考察を総括しよう。この『新妻LOVELY× CATION』とかいうゲームでは、架空の「嫁」との初恋・ 新婚・そして出産が描かれる。 そしてこのゲームの制作スタッフは、実在する式場でゲーム内の「 嫁」との「VR結婚式」を開催した。 そして式場に集まったヲタク達はVRの仮想空間で、彼らの「嫁」 と婚約したのである。
『新妻LOVELY×CATION』は、「 プレイヤーの脳内に架空の嫁と子供を作る」ゲームである。 このゲームに触れたヲタク達はビデオゲームとVR技術の合わせ技 により、彼らの脳内に「架空の嫁と子供」を作る。 このゲームが描いているのは、 至極凡庸な恋愛と結婚の物語に過ぎない。しかしその物語は、 ヲタク達の脳内で「濃密な仮想現実」として受容されるのだ。
これぞまさしく、色んな意味で「異次元の少子化対策」である。
完
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