かるあ学習帳

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『魔女こいにっき』感想と考察~夢を砕かれたなら物語ればいい~

 しかし選ばなければならない。生きるか、物語るかだ。(ジャン=ポール・サルトル『嘔吐』より)

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『魔女こいにっき』
シナリオ:新島夕、博恵夏樹、佐藤礼
原画:狗神煌、朝倉はやて、小桜りょう、白もち桜
(C)Qoobrand
2014年5月30日発売
 
今回は『魔女こいにっき』とかいうゲームを考察する。私はPC版でプレイしたので、本論はVita版ではなくPC版の考察である。これからいきなり物語の核心をネタバレするので、みんな覚悟して読んでくれよな?

 

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このゲームでは、「魔女こいにっき」という日記に書かれた物語が描かれている。主人公のたくみは、魔女こいにっきの中に封じ込められた「物語の登場人物」である。そしてたくみ達登場人物が日記の中で物語を演じているのを、黒幕の少女アリスが鑑賞しているという設定になっている。アリスは自らの陰謀でたくみ達を物語の中に封じ込め、一連のストーリー展開を繰り返し鑑賞しているのだが、ラストギリギリまでその姿を隠している。アリスは物語の中に自らを顕示したまわない、言わば「不在の神」に等しい存在である。
 
さて、ここまでのあらすじだけでも、このゲームの恐ろしく複雑な物語構造がある程度伝わったのではないかと思う。そして、なぜアリスはたくみ達を物語の中に封じ込めたのか?」「アリスが自分の存在を隠していたのはなぜなのか?」という疑念が提出されるであろう。端的に言ってアリスはたくみの元嫁だったのだが、自分を捨てたたくみのことを今でも深く愛していた。そこでアリスは魔女こいにっきに書かれた物語の中に、たくみを封じ込めてこっそり鑑賞していたのである!
 

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話は約210年前に遡る。たくみは元々砂漠の国で「ジャバウォック」という名前の国王を務めていた。たくみはアリスと結婚し、アリスを后にしたのだが、いつからかアリスを愛さなくなった。たくみがアリスを愛さなくなったのには、特に理由は無いらしい。そしてたくみは、アリスの代わりに他の女達と付き合うようになる。こう書いてみるとたくみはかなりゲスな主人公だなと思う。
 

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たくみはアリスを愛さなくなったのだが、アリスはたくみを「悲しいぐらい好き」だと思い続けた。そこでアリスは自分と同じ「アリス」という名前の登場人物を集め、物語の中でたくみと手を替え品を替え恋仲にさせていた。アリスはたくみの記憶を奪い、たくみが物語の中で繰り広げる恋愛に外野から感情移入していた。アリスは自分の姿をたくみに見せず、自分と同じ名前のヒロインとたくみの恋愛を読者として楽しんでいたのである。
 
…このように説明すると、「うわあ…『魔女こいにっき』って、えらくドロドロしたゲームなんだなあ…」という声が聞こえてきそうである。一応フォローしておくと、アリスとたくみに関するドロドロした事情は、ラストギリギリまで秘密にされている。それまでは、日記に書かれたたくみと複数のヒロイン達のメルヘンでマイルド風味な恋物語が展開されるのだ。そして日記を成立させたドロドロした経緯が伏せられているので、日記が乙女チックな魔法の本のように見せられている。
 

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ひと目惚れより永遠を
どうか日記に残せたら
あなたが明日へ去らぬよう
私に魔法が使えたら
 

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このゲームにおける魔女こいにっきは、物語を永遠に保存できるメディア」として扱われている。愛情や情熱は冷める場合があるし、恋愛や青春には大抵の場合終わりがある。しかし素敵な恋物語や青春物語を日記に保存すれば、物語を永遠に繰り返し楽しめるようになる。また、美しい恋愛の後で凄惨な夫婦喧嘩が始まったり、輝かしい青春の後に退廃的な社会人生活が始まったりすることがある。しかし恋愛や青春が終幕した時点で「物語を完結」させることにより、それ以降の展開をボツにすることができるのである。アリスはたくみの恋愛や青春を物語として封じ込め、自分は素敵な物語を永遠に鑑賞することを望んだのだ。
 
アリスはたくみの愛情が冷め、たくみとの恋愛が終幕したことに深く傷付いていた。アリスは自らの感傷を癒すためのコンテンツとして、魔女こいにっきに記された物語を麻薬のように鑑賞していた。たくみは最終的に鑑賞者であるアリスの存在に気付くのだが、アリスへの愛情を再生させるには至らなかった。代わりにたくみは、アリスに「自分の願いを物語ること」を勧める。
 

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ジャバウォック(たくみ)
だから語るがいい
それがありえないものだとしても
叶わぬものだとしても
いいじゃないか
お前はつたないながら、語り始めた
人に語られるだけじゃなくて、
自ら、語り始めたんだ
存分にそれをすればいい
世界にこうあれと、願えば良い
やがて物語は竜として
天をふるわす咆哮をあげるだろう
 
この『魔女こいにっき』とかいうゲームは、魔法の日記に書かれたメルヘンな恋物語として開始する。しかし終幕の間際に、失われた恋愛への感傷と絶望が描かれ、エンディングテーマとして男性シンガーTERRAによるハードロックが流れる。言わばふにゃほわ萌えゲーから感傷ハードロックへの転調、大どんでん返しである。さて、『魔女こいにっき』真エンディングテーマ「ヒステリア」を貼っておこう。この歌、曲調がかっこいいだけじゃなくて歌詞もまた良いのである。
 
夢を見て 砕かれて
この身を焼く 不浄の残滓が
青白く残していく ヒステリア
止めどなく 溢れてく
思いを凍りつかせる魔法で
この瞬間を永遠に…
Into the depth of freezing ocean
 
この歌詞は、大きな夢に挫折し、その夢が永遠に実現しない絶望を味わった敗北者にしか書けないセンテンスだと思う。アリスは物語の黒幕でありながら、主人公たくみに見放された「負けヒロイン」でもある。恋愛の敗北者であり、物語の表舞台から去ったアリスは、どうすれば救済されるのか。アリスは自分の深い絶望に向き合い、最後に能動的に物語を語り始める。そう、『魔女こいにっき』が究極的に描いたのは物語=コンテンツを消費することの対極である。夢が叶わない現実に反逆するために、物語=コンテンツを生産することなのだ。
 
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