かるあ学習帳

この学習帳は永遠に未完成です

題名からは想像できないくらい真面目なゲーム『無限煉姦』批評。

今回は『無限煉姦~恥辱にまみれし不死姫の輪舞~』とかいうノベルゲームを批評する。おそらく皆さんの中には、『無限煉姦~恥辱にまみれし不死姫の輪舞~』というタイトルを見てドン引きした人が少なくないだろう。「こんなゲーム、どうせキモヲタクが性欲を発散させるための低俗なゲームだろ?」みたいな声が上がりそうで嫌だな。でも、待ってくれ!違う違う、そうじゃないんだ。

『無限煉姦』は、メチャメチャ真面目なゲームである。それどころか、考え方次第では『無限煉姦』ほど真面目なゲームはこの世に存在しないのではないかと言ってよいほどだ。なぜならこのゲームは、「真面目に(真剣に)生きる」とはどういうことなのかを考えさせられる作品だからだ。私は『無限煉姦』を人々の誤解から救うために戦うことを、ここに宣言する。
 

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『無限煉姦~恥辱にまみれし不死姫の輪舞~』
シナリオ:和泉万夜
(C)Liquid
2011年11月25日発売
おすすめ度:★★★★★(人生観が変わるレベルの傑作。君も泣け!)
 

「生きる」のではなく「生き抜く」

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このゲームの第一章の舞台は、不死なる王が支配する異世界である。主人公の女性の身分は奴隷で、彼女に名前は無い。奴隷はゲッグという怪物に奉仕し、ゲッグから性的な虐待を受けていた。しかし奴隷は数奇な運命により、王から不老不死の生命力を分け与えられる。奴隷はゾワボという謎の青年に導かれ、次元の歪みを通過して16~17世紀頃のヨーロッパにワープすることになる。『無限煉姦』は不老不死の奴隷が時代と国境を越え、真剣に「生き抜く」物語である。
 

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第二章の舞台は、16~17世紀頃のヨーロッパである。奴隷はギュスターヴという心優しい吸血鬼に保護され、ネージュという名前を授かる。ネージュは親友のマリーや後輩のロアナと一緒に、幸福な生活を送る。しかし幸福な生活は永遠に続かない。不死なる王が支配する異世界から追手が追い付いて、ギュスターヴの城に侵攻を仕掛けてきたのである。
 
深手を負ったギュスターヴは、ネージュとマリーに思いやりのある言葉を残す。ギュスターヴの最期の言葉は、ネージュにとって大きな意味を持つものであった。
 

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ギュスターヴ「お前にはこれからも苦難がつきまとうだろう」
ギュスターヴ「だが、生き延びろ。肉体が不死であることなど関係ない」
ギュスターヴ「自分の人生を、力の限り生き抜くのだ
ネージュ「力の限り……生き抜く……
 ギュスターヴの言葉が心に重く響く。
 『生きる』のではなく『生き抜く』。
 それは、ネージュにとって、何よりも難しいことのように感じられた。
 
ネージュは不老不死の肉体を持っている。だからゆえに、ネージュには「若いうちにできることをやっておく」「死ぬまでにやりたいことをやり抜く」といった期限付きの目標が見付からないのだ。不老不死のネージュが、ギュスターヴの言う通りに「生き抜く」にはどうすればいいか。これがネージュにとって大きな課題になったのである。
 
第三章では、ネージュとマリーが18~19世紀頃のアメリカに逃亡する。第三章の内容は本論にとって重要性が低いので、割愛する。明治時代の日本が舞台の第四章に突入すると、物語の歯車は大きく動き出すことになる。第四章では主人公の女性が名前を日本人名の雪に改名したため、これからは主人公の女性を雪と呼ぼう。*1
 
(ここから先は重大なネタバレが含まれています)

 

 
 

死を与える

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第四章では、謎の青年ゾワボが雪に衝撃の事実を暴露する。第一章の異世界を支配する不死なる王の正体はなんと、悠久の時を経て成長した雪の未来の姿なのだった。不老不死の肉体を持つ雪は、とても長い時間を生きているうちに色々な術や技を使えるようになっていく。雪は最終的に異世界や生命体を創造できるようになる。永遠に生きているうちに孤独に耐えられず心が壊れた雪は陰鬱な異世界を創造し、そこで不老不死の王として君臨するに至る。第一章ではか弱い奴隷だった雪は、神に等しい存在に成長することが宿命付けられているわけだ。
 
雪はもともと現代日本で暮らす少女だったのだが、次元の歪みに落ちて記憶を失い、陰鬱な異世界で奴隷として酷使される。王から不老不死の力を得た雪は再び次元の歪みを通過し、16~17世紀頃のヨーロッパに移住する。雪は悠久の時を経て陰鬱な異世界を創造し、そこで不老不死の王として君臨する。そして不老不死の王が支配する異世界にかつての雪が落ちてくる……といった具合に、負の無限ループが発生している。*2しかも不老不死の王が創造した異世界はインモラルな世界で、醜悪な怪物や性的虐待が横行しているといった有り様である。
 
負の無限ループとインモラルな異世界の誕生を阻止するには、どうすればいいか。ゾワボが雪に提案した解決策は、これまた衝撃的なものだ。16~17世紀頃のヨーロッパに移住してから徐々に強くなった雪が王になる前に異世界に侵攻し、不老不死の王を殺した後で自殺すれば、歴史が修正されて無限ループと異世界誕生は解決するという。雪が異世界で闇落ちした未来の自分の心臓を刺し、自分の心臓も刺すという条件が満たされると、両者の心臓は止まり、歴史の流れが改善されるそうだ。
 

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不老不死の肉体を持つ雪は、不老不死であるがゆえに期限付きの目標を持つことができなかった。しかし雪には、ついに期限付きの目標が生まれた。次元の歪みが発生する2011年7月17日に異世界に侵攻し、未来の自分と一緒に死んで歴史を修正するという目標が。そして不老不死の雪は自らに死を課すことによって、死ぬまでの有限な人生を真剣に「生き抜く」ことができるようになった。
 

無限のインモラル、有限のモラル

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『無限煉姦』では、不老不死の肉体を持って永遠に生きることが否定的に描かれている不老不死の肉体を持っていると期限付きの目標を設定するのが困難になり、自分の人生を真剣に「生き抜く」ことができなくなってくる。そして不老不死の肉体を持っていると、自分以外の生命が絶滅し地球が滅びたとしても、孤独に生き続けることになる。たった独りで生き続けると、不老不死の肉体は存続しても心が崩壊する。孤独に生き続けて心が壊れた雪の成れの果ての姿が第一章の魔王であり、魔王は永遠に存続するインモラルな異世界を創造した。
 

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一方、『無限煉姦』では、有限の肉体を持って自らの死を覚悟して生きることが肯定されている。有限の肉体を持っていると期限付きの目標を次々に設定できるようになり、自分の人生を真剣に「生き抜く」ことができるからだ。そして2011年に自殺するという「死の目標」を未来に設定することにより、雪は自分が死ぬまでの人生を美しく有意義に輝かせるに至った。不老不死の肉体からは極めてインモラルな結論が導かれた一方、有限の肉体からはモラルのある生が導かれるというわけだ。
ボン大学哲学正教授のマルクス・ガブリエルは、斎藤幸平との対談で、「AIには倫理が無い」と発言している。なぜだろうか。なぜなら、AIは死なないので、「どう生きるか」が問題にならないからだという。「どう生きるか」というモラルは有限の生命を持つ存在者だからこそ真剣に考えられる問題なのであり、無限の生命を持つ存在者はモラルを思考するのには向いていないのである。ガブリエルが斎藤に語った「倫理観」は、『無限煉姦』にも通底していると言えるだろう。
 

f:id:amaikahlua:20211009141649j:plainマルクス・ガブリエル(1980~)

 AIは死にません。もしあなたが生き物ではなく、不死身の存在であれば、どう生きるかは問題とならないので、倫理をもつことはできません。倫理は、死すべき存在のためのものなのです。*3
 

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『無限煉姦』の最終章には「すべての終わりが始まった日」という素敵な題名が付けられている。最終章では、雪が平穏な現代日本で2011年7月17日までの残りの人生を豊かに送る様子が描かれている。自殺を決意した芥川龍之介は自然を美しいと感じたそうだが、自殺を決意した雪の「末期の目」に映る自然もたいそう美しいものであった。雪が見たのどかな自然の風景を、あなたにも見て貰いたい。この風景には、涙無しでは見られない美しさがあるから……。
 
『無限煉姦』は無限ループやとある登場人物の服装に違和感を感じましたが、人生観が変わるレベルの傑作だと思いました。感動の大作をありがとう。

*1:本論では主人公の女性の呼び名にやや不正確な所があるのですが、記事の読みやすさを優先しているのでご容赦下さい。

*2:『無限煉姦』の無限ループには不備があると私は考えている。しかし本論の目的は『無限煉姦』のテーマを探ることであり、作品の粗探しをすることではない。そのため、作品の粗には立ち入らない。

*3:斎藤幸平編『未来への大分岐』、集英社新書、二〇一九、二〇三頁。