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『美少女万華鏡 忘れな草と永遠の少女』考察~抑圧されたものの回帰~

今回は『美少女万華鏡』第2話忘れな草永遠の少女を考察します。第2話は第1話と比べて明らかにシナリオが高度になっています。しかし、第2話でも万華鏡を覗く夏彦が永遠の快楽の世界の片鱗をひとときだけ体験する」という定石は維持されていました。忘れな草永遠の少女」というタイトルから推測できる通り、第2話では現実の彼岸に輝く「永遠」が強調されてすらいます。
 

『美少女万華鏡 忘れな草永遠の少女
シナリオ:吉祥寺ドロレス
原画:八宝備仁
2012年7月27日発売
(C)omegastar
 

ホラー作家・深見夏彦は、謎の少女・蓮華に会うために「人形の間」を再び訪れます。蓮華が持つ不思議な万華鏡は、現実と、夢の世界とを繋ぐ、誘惑の架け橋」です。蓮華の万華鏡を覗いた者は美しく魅力的な夢の世界を見ることができるため、人々は現実に帰れなくなる危険を冒しながら万華鏡に手を伸ばします。夏彦もその例外ではなく、再び万華鏡の中の夢を覗きます。
 

第2話で万華鏡の中に映し出されるのは、ひきこもり少年・神崎彰人の青春です。彰人には小学生の頃、雫という彼女がいました。彰人と雫は、ほたる池で忘れな草の種を植えました。忘れな草には私を忘れないで」「真実の愛」という花言葉があります。子供の頃の彼女を、そして子供の頃の彼女から受け取った愛を忘れずに覚えている彰人は、過去の思い出に縛られることになります。『呪術廻戦0』みたいに、幼少期の愛が「呪い」に転化するパターンですね。
 

彰人は「生まれつき心臓が弱い」ため、ひきこもりがちで病院通いの少年に成長しました。そして雫は二年前に引っ越しましたが、彰人は忘れな草の思い出を忘れられず苦悩します。自己と世界の消滅を願った彰人に、奇跡が起こりました。雫が再び、彰人の前に現れたのです。しかし、雫の今の住所はどうなっているのだろう?そして、彰人には何やら抑圧された過去の記憶があるらしい。何となく不穏なムードを漂わせながら、彰人は再会した雫と青春の思い出を作っていきます。
 
(以下、超ネタバレ)

 

彰人が思春期に突入したばかりの頃、雫はアイドルのような外見と身体能力を持つ美少女に成長しました。雫を独占できなくなり、焦った彰人は、雫を脅迫して強姦しました。雫は愛によって彰人を許したのですが、罪悪感に耐えきれなくなった彰人はナイフで自分の心臓を刺しました。彰人は心臓病ではなく、自殺未遂した記憶を抑圧していたのです。そして彰人は心を閉ざしていたため、第2話の内容の大半は彰人がねつ造した記憶だったことが判明します。
 

これは私の推測なのですが、彰人と雫が忘れな草の種を埋めた土は、彰人の無意識の象徴でしょう。そして土に埋められた忘れな草の種は、彰人が幼少期の雫と育んだ思い出や愛を意味していると思います。「私を忘れないで」「真実の愛」の意味を持つ忘れな草の種が地中に埋まっていることと、幼少期の雫との思い出や愛が彰人の無意識に沈殿していることが、シンクロする構図になっているわけですね。さらに彰人は自殺未遂に使ったナイフも土に埋めていたのですが、土に埋められたナイフは思春期の彰人が無意識に抑圧したトラウマや破壊衝動の象徴だと思います。
 

幼少期に無意識に抑圧されたトラウマはやがて回帰してくるという学説がありますが、この《抑圧されたものの回帰》が地面から一斉に生えた忘れな草の花で表現されている所がすごく良かった。幼少期に地面に植えた忘れな草の種がやがて開花するのとシンクロして、幼少期の彰人の無意識に沈殿した愛=呪いが回帰してくるという展開は上手いですね。
 

雫に罪を許され、ねつ造した記憶から解放された彰人は、仲間たちと平穏な日常を送り始めます。そして彰人はもう、永遠に現実から逃げないことを誓います。しかし彰人が現実だと思っている世界は、メタ的に見ると万華鏡から観測される夢幻の一つに過ぎないのです
 
この第2話で描かれた永遠は、第1話で描かれた永遠と比べてけっこう抽象的な永遠だったなと思います。第1話は不老不死の吸血鬼である滋比古と霧枝が永遠に愛し合い続けるというオチで、不老不死というキーワードがあるので「永遠」が具体的にイメージしやすかった。第2話では彰人と雫がお互いの存在を「永遠に忘れない」ということと、彰人が「永遠に現実から逃げない」ということが表現されており、「永遠」の抽象度が増しています。
 

さらに、第2話は第1話と比べて物語構造の複雑さも増しています。彰人が現実だと思っている日常世界の中に、彰人がねつ造した青春の記憶が入れ子のように内包されていましたそして彰人と雫との永遠の愛の世界の一部を、夏彦は万華鏡を覗いてひとときの夢として体感しました。第2話のラストでも夏彦は万華鏡が見せる夢から目を覚まし、永遠の快楽の世界の片鱗を万華鏡でひとときだけ覗き見る」という構図が維持されます。
 
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