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『水の都の護神 ラティアスとラティオス』批評~新機軸の導入について~

今回は、ポケモン映画第5作『水の都の護神 ラティアスラティオス(以下『水の都』)を批評します。この作品は2017年に行われた人気投票「推しポケモン映画ナンバーワンはキミにきめた!」で1位に輝いた作品です。ファンの皆さんの間で強く支持されている『水の都』の見どころを語らせてもらいましょう。

 

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『水の都の護神 ラティアスラティオス

監督:湯山邦彦
脚本:園田英樹
(C)ピカチュウプロジェクト
2002年7月13日公開
おすすめ度:★★★★☆(破綻無く丁寧に作り込まれた良作)
 
・自己主張の強い世界観

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『水の都』の舞台は、実在するイタリアの都市ヴェネツィアをモデルにした架空の都市アルトマーレです。前作『セレビィ 時を超えた遭遇』でも豊かな森林の描写が美しいと思いましたが、『水の都』では美しい背景が尚更心に残ります。
 
『水の都』では、アコーディオン奏者のcobaさんが音楽を担当しています。アコーディオンの音色が、異国情緒溢れる世界観によく似合っています。特に「謎の少女、再び(迷宮)」という曲が良い。正直、『ミュウツー』~『セレビィまでのポケモン映画でBGMが格別心に残ったことが無かったのですが、『水の都』のBGMは心に残りました。
 

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『水の都』では世界観の個性と言うか、自己主張が強いと思うんですよね。前作『セレビィまでと比べて、シナリオだけでなく世界観でも勝負してやろうという意気込みが感じられました。
 
・史上初の女の悪役ボス

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『水の都』オリジナルの悪役は、怪盗姉妹・ザンナーとリオンです。この2人は、ポケモン映画史上初の女性の悪役ボスです。ザンナーは神田うのさん、リオンは釈由美子さんがCVを担当しています。話が横道に逸れますが、釈由美子さんは去年『仮面ライダージオウ』に出演して話題になりましたねw

(ここから先には重大なネタバレが含まれています)
 
ラティオスの受難

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『水の都』には、伝説のポケモンラティアスラティオスが登場します。ラティアスラティオスは兄妹なのですが、兄のラティオスの方が随分酷い目に遭っているように思いました。ラティオスは、この映画の終盤でポケモンとしての生を終えます。前作『セレビィ』に引き続いて、今作でも「ポケモンの死」が描かれるとは…。*1脚本家の園田さんはポケモンキラーですねw
 
・伝説のキスシーン
『水の都』のラストには、キスシーンがあります。このキスシーンは、ファンの皆さんの間で有名なシーンです。
 

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まず、ポケモンという子供向け作品にキスシーンが導入されたということ自体が、端的に言って刺激的だし画期的なことだったと思います。恋愛やキスシーンを持ち込むのに少しためらいが生じるポケモンそれでもなおキスシーンを持ち込んだのは結構勇敢な試みだと思いました。子供向け作品の制約に挑んだ(大げさ?)園田さんの脚本を評価したいです。
 
そして、サトシにキスをしたのはカノンなのかラティアスなのかが判別できないところが、このキスシーンが話題になった理由でしょう。ラティアスにはカノンという少女の姿に化ける能力があるので、カノンに擬態してサトシにキスをすることができるのです。作中ではサトシにキスをしたのがカノン本人だともカノンに擬態しラティアスだとも解釈できるような、曖昧な描写がなされています。サトシにキスをしたのが「カノン派」と「ラティアス派」に解釈が分かれており、どちらが正しいのかは永遠に決着が付かないでしょう。
 

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ちなみに野暮ながら私見を述べさせてもらいますが、私は「ラティアス派」です。ラティアスはカノンに擬態してサトシの手を引いたし、サトシが奮闘しているのを間近で見ていました。ですからラティアスは早い段階からサトシに好意を持っていたし、サトシに惚れ込む機会が豊富にあったと思うんですよね。一方、カノンはラティアスほどサトシの奮闘を目の当たりにしていないので、サトシに惚れ込むフラグがあまり立っていないと思うのです。また、ラストでサトシは無言でキスされましたが、このことも私が「ラティアス派」である理由です。ラティアスはカノンに擬態したら無言になるので、サトシにキスをしたのはラティアスだと私は信じています。カノン本人だったら、サトシに何か言ってからキスするだろうと思います。以上、ヲタク特有の早口でした。
 
 
この歳で『ミュウツーの逆襲』から順番にポケモン映画を観ていると、『水の都』には前作『セレビィまでには無かった複数の新機軸が導入されているなあと思います。実在の西欧の都市をモデルにした世界観、女の悪役ボス、それからキスシーン。ぜんぶポケモン映画史上では目新しいことだったと思います。前作『セレビィ』でも、ポケモンの強奪、ポケモンの死といったポケモン界のタブーをビシャスが破壊した訳ですが。
 
園田脚本のポケモン映画をそれほど観ていないので断言はできませんが、園田英樹さんはポケモン映画に新しい要素を持ってくる脚本家さんなのかなと思いました。ミュウツー』~『エンテイまでの脚本を担当した首藤さんの方が、園田さんよりもシナリオの奥が深かったとは思います(苦笑)。でも、園田さんにはポケモン映画の枠組みを広げたり制約をぶっ壊したりするパワーがあると思うんですよね。
 
首藤脚本は、ポケモン映画の奥を「深く掘り下げる」。
園田脚本は、ポケモン映画の表現を「幅広く拡張する」。
少し気取った言い方をすると、「深さの首藤、広さの園田」と言った所でしょうか。

*1:ラティオスの魂が「こころのしずく」に転生したと解釈することはできますが、それにしてもラティオスポケモンとしての生を終えたことに変わりがないわけで…。