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ブンガクとしての『逆転裁判2』~その感想と考察~

amaikahlua.hatenablog.com

前回は『逆転裁判 蘇る逆転』を「オトナの世界」を物語るブンガクとして読み解いてみた。今回は『逆転裁判2をブンガク的に読み解いてみたい。

 

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2002年10月18日発売(GBA)
 

闇を精算し、バトンを渡す

逆転裁判2』は、収録されている物語同士の伏線の張り具合が弱い作品だと思う。第1話「失われた逆転」は、後続する第2話~4話にほとんど伏線を張っていないと思う。第3話「逆転サーカス」では狩魔冥の「復讐」の内実が少し明かされるものの、この第3話は基本的に必要性が乏しいと思う。前作『蘇る逆転』は一貫して「オトナの世界の物語」だったと解釈できるし、次回作『逆転裁判3は過去と現在が複雑に交錯するシナリオが大変良くできている。しかし、私がプレイした限り、逆転裁判2は全話に一貫した軸や作品内部に張り巡らされた伏線がイマイチ貧弱なソフトだと思った。
 
逆転裁判2』のシナリオは、全体的な構成が緩いと私は思っている。その代わり、『逆転裁判2』は次回作『逆転裁判3』への伏線を張り、前作『蘇る逆転』が残した闇を精算した作品だと思う。成歩堂三部作」の中間に位置する『逆転裁判2』は、前作の闇を消化し、次回作へバトンを渡した中継地点なのだと解釈できる。第2話「再会、そして逆転」では綾里家の内部事情が描かれ、『逆転裁判3』の最終話への伏線が張られた。第4話「さらば、逆転」では『蘇る逆転』狩魔豪とガント局長が残した闇が精算されている。
 

ブンガクとしての第4話

第4話「さらば、逆転」が『蘇る逆転』の闇を精算したと言っても、ピンと来ない読者もおられるであろう。なのでこれから、第4話を詳細に考察していく。
 
逆転裁判2』の第4話では、メインヒロインの綾里真宵が殺し屋によって人質に取られる。殺し屋は、人質の命と引き換えに被告人の無罪判決を主人公の弁護士・成歩堂に要求する。真宵が殺されたくなければ、被告人・王都楼を無罪にしろと。しかし王都楼は極悪人で、殺し屋に殺人を依頼した真犯人だった。殺し屋に弱味を握られ、極悪人を無罪にしなければならなくなった成歩堂は、苦悩する。
 
・「他人を信じる」ことの弱さ

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逆転裁判シリーズに登場する被告人は、基本的に無実の罪を着せられている。成歩堂はピンチの時も諦めず、最後まで被告人を信じて弁護する。「他人を信じる」ことの大切さや美しさは、逆転裁判シリーズの大きなテーマである。逆転裁判2の第4話でも、「他人を信じる」ことの尊さが良く描かれている。成歩堂と御剣検事の信頼関係や、殺し屋と依頼人の仁義など、「信頼」というテーマが第4話では色濃く表れている。
 

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しかし面白いことに、第4話では他人を信じることの「弱さ」も描かれているのだ。第4話で初登場する華宮霧緒は、心から信頼できる他人に盲目的に従う依存症の持ち主だった。狩魔冥も強大な父親である豪に依存しており、そこが彼女の心の弱さであった。成歩堂は一見すると良い人そうに見える王都楼を信用したが、王都楼に期待を裏切られた。「他人を信じる」ことは素晴らしいことなのだが、信頼が時には「弱さ」に繋がることもあるのだ。
 

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第4話では、成歩堂の人間的な弱さが色濃く表れている。成歩堂は殺し屋に人質を取られていたため、真犯人ではない霧緒に罪をなすりつけようとした。成歩堂は世界中を敵に回しても、人質である真宵を救おうとした。成歩堂は弱味を握られたことをきっかけに正義を見失いそうになったし、正義よりも身内を優先しそうになった。『逆転裁判6でも成歩堂は悪人に弱味を握られ、かなり情けない姿を見せた。私たちは主人公・成歩堂龍一を神格化するべきではない。彼は、他人を信じるが故にお人好しな、弱さのある人間なのだ。
 
狩魔豪の「業」

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逆転裁判2』には、検事の狩魔冥が登場する。冥は前作『蘇る逆転』に登場した伝説の検事・狩魔豪の娘である。冥は色んな意味で豪の「業(カルマ)」を受け継いでいる。冥は「法廷でのカンペキな勝利」を追求する豪の理念を継承した、カンペキ主義者である。冥はライバルである御剣検事を超えるために、法廷で成歩堂に勝とうとした。冥がアメリカから来日した理由として、『蘇る逆転』で解決されたDL6号事件が挙げられる。冥は前作の出来事を引きずった人物であり、『蘇る逆転』はまだ完全に終わっていなかったのである。
 

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逆転検事』より
御剣は前作『蘇る逆転』で自らの検事としてのあり方を揺るがされ、放浪の旅に出た。御剣は放浪の末、豪から教わった「カンペキな勝利」ではなく「カンペキな真実」を追求するようになる。「カンペキな勝利」を追求した豪と冥が成歩堂に敗北し、「カンペキな真実」を追求するようになった第4話の御剣が成歩堂に勝利したのは興味深い。勝利を追求する検事が勝利を得られず、勝利を追求しなくなった検事が勝利を得た。勝利の女神は、なかなかに皮肉屋だ。
 

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御剣は『蘇る逆転』で成歩堂に敗北したことをきっかけに、人間的に成長することができた。ゲームや少年漫画などでは、「勝利」が成長に繋がることが多い。敵を倒して勝利し、経験値を得たり成長したりする。しかし御剣を大きく成長させたのは「勝利」ではなく「敗北」だったのだ。人は時に、勝利ではなく敗北することによって見違えるほど成長することがある。豪や冥のように勝利を追求する生き方は、その人を成長させるのだろうか。カンペキな勝利を追求することによって、反って徳の高い人間から遠ざかることがあるのではないだろうか。
 

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逆転裁判2』のラストで、冥が父親である豪に依存していたことが明らかになる。他人に依存していたり、復讐を考えていたり、冥と霧緒は似ている点が多い。『逆転裁判2』の第2話~4話に登場した冥は、豪に依存していた。そしてかつての御剣も、狩魔家の理念に服従していた。逆転裁判2』という作品自体が、前作で有罪になった狩魔豪の存在に大きく依存していたのだ。御剣はカンペキな勝利を手放すことによって『蘇る逆転』の衝撃から蘇生し、豪やガント局長の呪いから解放された。最後に御剣は、冥に未来への道を指し示す。逆転裁判2』は、検事たちが『蘇る逆転』の残響から逃れるまでの過程を描いた物語だったのである。