かるあ学習帳

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Zero to One ~ピーター・ティールの「金儲けに役立つ哲学」~

ピーター・ティール(1967~)

ピーター・ティーは、ドイツ出身の億万長者である。彼はスタンフォード大学で哲学を専攻し、哲学の力を利用して莫大な富を築くことに成功した。彼の経営思想を学べば、「哲学は社会の役に立たない」どころか哲学は金儲けの役に立つ」ということがよくわかる。
 

「競争」から「独占」への転回

ティールは少年時代、病的なまでに「競争」に熱中した。学校のテストでクッソ高い点を取り、ライバルよりも良い成績を出そう。チェスの大会に出場し、全米トップに入賞しよう。ティールはチェスで全米7位になり、ハーバード大学にも合格した。しかしハーバード大学に入学したら他のクッソ優秀な学生と競争して負ける怖れがあるので」彼はハーバードに進学しなかった。その代わり彼は、スタンフォード大学に進学した。
 
ティールはスタンフォード大学哲学科で、ルネ・ジラールとかいう哲学者に出会った。ジラールは、人類の不毛な「競争」を批判した哲学者である。人類は、他人が欲するものを欲する」生き物である。そして人類は模倣(ものまね)が好きなので、他人がやることをよく真似する。例えば、友達がニンテンドースイッチを持っていたら、自分もニンテンドースイッチが欲しくなる。そして友達がポケモンのオンライン対戦に熱中していたら、自分もオンライン対戦に熱中する。こうした要領で「他人の欲望」と「模倣」から、激しい「競争」が生まれるわけだ。
 
今まで病的なまでに「競争」に取り憑かれていたティールは、ジラール先生の「競争を批判する哲学」に触れ、自らの思想を大きく転回させた。人類は何の意味も無いものを巡って不毛な競争をしやすく、相手に勝つことだけに夢中になりやすい。しかも競争で利益を出したり・競争で自分の目標を叶えたりすることを忘れて、大勢の人物が無意味な戦いに熱狂してるじゃないか。哲学はティールの内面に大きな反省をもたらし、哲学はティールの心を変えた。
 
そしてティールは、「競争を避け、独占を狙う」独自の経営思想を形成するようになる。
 

大学で学んだ哲学で億万長者になる方法

ティールの「競争を避け、独占を狙う」経営思想は、シンプルかつ実にクレバーな理論だ。
 
例えば今の日本のアニメ業界は、競争がクッソ激しいことで知られている。日本には多くのアニメ会社やアニメ関係者が存在し、一週間に放送されるアニメの量もクッソ多い。そんなアニメ業界に参入して競争で勝利するのは、非常に厳しい所業である。さらに競争に巻き込まれた人々は敗北を怖れ、競争に敗れた人々は廃業や倒産に陥ることもある。アニメ業界とは少しズレた話になるけど、競争に巻き込まれた会社は、自社の製品を競合他社よりも安く売らなければならなくなったりもする。
 
そこでティールは「競争する人間は負け犬」と言い放ち、他の競争相手が見付からない分野を独占する」戦略を立てた。彼は大勢の人々が競争しているのを横目で見ながら、大勢の人々によって開拓されていない市場を探す。そして彼は未開拓の市場を独占し、無意味な競争を避けながら自分の領土を広げていく。さらに市場を独占すれば、その市場の商品価格は彼の自由で決められる。この手口で、彼は億万長者になったのである。
 
ティールの狡猾なまでに要領の良い経営思想は、彼の主著Zero to One”に要約されている。
 

「もしもあまりにも大勢の企業が市場に参入したならば、人々は敗北を怖れるでしょうし、いくつかの店が畳まれるでしょうし、価格は持続可能なレベルまで戻るでしょう。完全な競争状況下では、長い目で見ると、どの会社も経済的な利益を出せないのです。*1

「完全な競争状況の対極にあるのは、独占です。競争力のある会社は市場価格で商品を販売するのでしょうが、独占する会社は市場を所有するので、価格を自分で設定できます。そのため、競争は存在せず、会社は最大の利益を出せる量と価格の組み合わせで、商品を生産できるのです。*2
 
ティールは当時注目されていなかった電子決済市場に注目し、1998年にオンライン決済サービス会社「ペイパル」を創業した。彼はペイパルの成功により時代の寵児になり、2004年に新会社パランティア・テクノロジーも創業した。ティールはパランティアのCEOに、アレックス・カープとかいう哲学者を抜擢した。カープはドイツを代表する哲学者ユルゲン・ハーバーマスから博士号を授与された男で、投資で莫大な富を稼いだ経験もある。また、ティール財団は、ジラール哲学の応用を促進しているという。
 

「哲学は社会の役に立たない」と「競争」を疑え!

今の日本には、「哲学は社会の役に立たない机上の空論だ」と思っている人が多いように私には感じられる。しかしピーター・ティールが哲学の力を利用して億万長者になったという事実を考慮すると、哲学は使いようによってはむしろ「金儲けにクッソ便利な学問」だと思えてくる。孫子』や『韓非子』のような中国哲学を経営に役立てている実業家は、日本にも存在するしな。パリピ孔明とかいうアニメでは、中国の兵法が音楽プロデュースに応用されているという話もあるし
 
また、ティールの「競争を避ける経営哲学」は、競争の渦中で苦しんでいる人々にとって、示唆に富んだものであろう。学校・会社・オンラインゲームなどでの競争に疲れた人々は、競争を避けて独占を狙う」ティール思想の導入を検討してみてはいかがだろうか。競争し、競争に勝つことだけが、人生の喜びではない。私たちは独占し、独占できるニッチな領土を広げることによって、幸せになることもできるのである。
 
●参考文献
Peter Thiel with Blake Masters, “Zero to One”, Virgin Books, 2014
トーマス・ラッポルト(赤坂桃子訳)『ピーター・ティール』、飛鳥新社、二〇一八
木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』、星海社新書、二〇一九

*1:Peter Thiel with Blake Masters, “Zero to One”, Virgin Books, 2014, p.24.和訳は私=甘井カルアが担当した。

*2:Ibid.