「ポケモン映画幻の第3作」VS『のび太の恐竜』~恐竜の化石が世界にもたらすもの~
皆さんは、「ポケモン映画幻の第3作」を知っていますか?
映画館で公開された第3作目のポケモン映画は『結晶塔の帝王 ENTEI』ですが、実は『結晶塔の帝王 ENTEI』の企画が通る前に、 ボツになったシナリオが1つあったのです。 今回はそのボツになった「ポケモン映画幻の第3作」 のシナリオを批評します。
「ポケモン映画幻の第3作」のあらすじ
実は本作(注:『結晶塔の帝王 ENTEI』のことです)以前に首藤が半年をかけて作ったプロット、 もう一つの劇場版ポケットモンスター第3作の存在があった。 それは劇場版第1作の「自己存在」、第2作の「共存」に続く「 自分の生きている世界は何なのか?」というものである。
劇場版第1作『ミュウツーの逆襲』では、 ミュウツーの思索を通じて「自分の存在」 というテーマが扱われました。第2作『幻のポケモン ルギア爆誕』では、伝説の鳥ポケモン同士の相互作用を通じて「 それぞれの自己存在の共存」というテーマが描かれました。
そして、「ポケモン映画幻の第3作」のテーマは「 自分の生きている世界」です。第1作から第3作に進むにつれて、 話のスケールがどんどん大きくなっていますね。『ルギア爆誕』 ではそれぞれの自己存在が共存することによって成り立つ世界が描 かれましたが、「幻の第3作」 はその世界全体の意味を考える内容になっているみたいですね。 これは大きく出ましたね。
アニメ版ポケモンには、 人間とポケモン以外の動物が登場しません。 ピカチュウはねずみポケモンですが、 ピカチュウのモチーフになっているネズミという動物は作中に姿を 現しません。 ティラノサウルスがモチーフになっているガチゴラスというポケモ ンは存在しますが、 ティラノサウルスという恐竜は作中に姿を現しません。
「ポケモン映画幻の第3作」では、 そんなアニメ版ポケモンの世界でティラノサウルスの化石が暴走し ます。「幻の第3作」のシナリオは「 人間とポケモン以外の動物は出さない」 というルールを破っていますし、 ティラノサウルスの化石を暴走させてポケモンの世界観をぶっ壊しているようにも思えますね。ずいぶん滅茶苦茶というか、 攻めすぎな脚本だなあと思います。
「ポケモン映画幻の第3作」の挫折
脚本家の首藤さんのコラムによると、「ポケモン映画幻の第3作」 のシナリオは「 無機質なものに意識が宿り動きだすストーリーはヒットしない」 という(ちょっと意外な)理由でボツになったそうです。昔『 爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の映画で「 意識が宿ったミニ四駆が暴走する」 というネタをやってウケなかったことが、 おエラいさんの間でトラウマになっていたらしい(笑)。
こうして「幻の第3作」のシナリオはお蔵入りになりました。 そして今年の初め、アニメ版ポケモンの舞台が「 地球とは別の惑星」であることが明かされたので、 今後アニメ版ポケモンに人間とポケモン以外の地球上の動物が出現する可能 性は絶望的に低そうです。
かりに「幻の第3作」のシナリオが採用されたとしても、 映画はヒットしなかっただろうなあと思います。 ポケモンの世界に場違いなティラノサウルスの化石が現れたら観客は困惑 するでしょうし、 ティラノサウルスの化石がポケモンの世界観をぶっ壊しているのを観ても いい気分はしないでしょうから。
恐竜の化石が世界にもたらすもの
ついでにいい機会なので、ドラえもんについても触れさせていただきます。
『のび太の恐竜』は、 スネ夫がティラノサウルスの化石をのび太たちに自慢するところか ら始まります。「ポケモン映画幻の第3作」ではボツになった「 ティラノサウルスの化石が発見されるところから始まる」 というのに近いネタから、ドラえもんの映画は始まっています。
また、「ポケモン映画幻の第3作」では同じくボツになった「 恐竜の化石に意思が宿る」というのに近いネタも、『 のび太の恐竜』では披露されています。 のび太が発掘した恐竜の卵の化石がドラえもんのひみつ道具で復元 され、卵からフタバスズキリュウのピー助が誕生します。
「人間とポケモン以外の動物は出さない(出せない)」
という厳しい制約があります。
一方、ドラえもんの世界には恐竜が出てもいいし、 宇宙人や魔法使いなどが出てもいいので、
「おおざっぱに言うとなんでもあり」
です。