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『劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer』感想~美意識がもたらす暴力について~

今回は、『劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer』(以下『OQ』)を観た感想を書きます。
 

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『劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer』

監督:田﨑竜太
脚本:下山健人
(C)2019劇場版「ジオウ・リュウソウジャー」製作委員会
2019年7月26日公開
おすすめ度:★★★★★(67分の短い映像だが、恐ろしく濃密な体験が味わえる)
 

映画館で観た時の感想

 
去年、私はこの映画を映画館で直接観に行きました。この映画を観終わった後、私は自分の両足が痛くなっていることに気付きました。どうやら私は、ずっと両足に物凄い力を込めて踏ん張りながらこの映画を観ていたようです。そのことに、この映画を観ている間は全然気付きませんでした。ずっと両足に気合を入れて踏ん張りながら観ていたのに、映画を観るのに夢中でそのことに気付かなかった。『OQ』は、それくらい面白い映画だったのです。現場からは以上です。
 
仮面ライダージオウ』という作品を私なりに評価すると、TV版のシナリオは良くも悪くもごった返していたけど、冬と夏の劇場版の出来は最高に良質だった」となります。TV版『ジオウ』を観ていると、ゲスト出演する俳優さんや続々発売される玩具と上手く折り合いを付けた脚本を考えるのがしんどそうな感じがした。私はTV版ジオウのごった返したシナリオをあまり高く評価していませんが、冬映画の『平成ジェネレーションズFOREVER』と夏映画の『OQ』には満点に近い評価を付けています。
 

美意識がもたらす暴力について

 
『OQ』では、仮面ライダージオウに変身する常磐ソウゴたちと、「歴史の管理者」を名乗る集団クォーツァーとの戦いが描かれます。DA PUMPが演じるクォーツァーは、平成仮面ライダーの歴史を破壊し・平成の歴史をもう一度やり直そうとします。クォーツァーのリーダー(名前はネタバレになるので伏せます)が平成の歴史をリセットしようとする理由が、とても面白かったです。
 

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「お前たちの平成って、醜くないか?
 まるで凸凹で、石ころだらけの道だ」
 
「お前たちの平成って、醜くないか?」という名ゼリフは、裏を返せば「俺たちは平成を美しくしたい」ということです。クォーツァーのリーダーは、「醜い」平成仮面ライダーの歴史を、「美しい」ものに改変しようとします。平成仮面ライダーの歴史が「醜い」と言える根拠は、平成仮面ライダーという作品群に対するメタ的な思考です。
 

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ウォズ「そもそも平成ライダーが悪いんだ。設定も世界観もバラバラすぎだ…。という声が多くてね」
 
平成仮面ライダーは電車に乗って時間旅行する電王、医療とゲームがテーマのエグゼイドなど、シナリオの作風や仮面ライダーの外見に統一感がありません。平成仮面ライダーは多くの要素がバラバラで、もはや「仮面ライダーと呼べるものの定義がよくわからなくなってしまった!という苦情をたまにネットで見かけます。だからクォーツァーは、そんなバラバラで「醜い」平成仮面ライダーの歴史を「管理」しようとしたわけですな。
 

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私個人の意見としては、「平成の歴史を美しくしたい」という美意識が、仮面ライダージオウたちを苦しめる暴力として描かれているところが面白いなと思いました。平成仮面ライダーの歴史はバラバラで見苦しいから、その歴史を美しくしたい。クォーツァーのリーダーの思想はある意味では聞こえが良く思えますが、この思想が『OQ』では大きな暴力を産み出しているのです。
 
私たちの現実の日常生活でも、美意識が暴力を産み出すことがよくあるように思います。例えば、外見が不細工な人が「不細工だから」という理由でいじめの被害に遭うことがある。他にも、字が汚かったり歌を上手く歌えなかったりする人が、みんなの笑い者になったりする。嫌な話ですが、私たちには「美しいものを良しとする美意識」が備わっているぶんだけ「醜いものを虐待する暴力」も備わっているように思います。この映画では、そういう潜在的な暴力が鋭く掘り起こされているなと思った。
 

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この発言は、平成仮面ライダーに統一感が無いことに対する開き直りだと解釈されそうではあるが…(笑)
『OQ』は、今まで見落とされてきた「美意識がもたらす暴力」に焦点を当てた傑作だと思います。醜くても、バラバラでも、一生懸命で個性的な対象を評価し、私たちは「美意識がもたらす暴力」に抵抗する心を持たなければならないーー。