かるあ学習帳

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教養としての『ワリオランド1~3』~記号だけの快楽~

ニンテンドー3DSダウンロード販売バーチャルコンソールワリオランドシリーズを遊んでみたら面白かったので、今回はその感想を書きます。
 

スーパーマリオランド3 ワリオランド

ワリオランドシリーズは、スーパーマリオシリーズの派生作品として誕生しました。ワリオは元々マリオの敵でしたが、今作で晴れて単体の主人公としてデビューします。体力や残機・制限時間などに気を配りながら敵を倒していく、典型的な横スクロールアクションゲームでした。初代『ワリオランド』は本稿での重要度が低いソフトなので、紹介はこの程度で許して下され。
 

ワリオランド2 盗まれた財宝

ワリオランドはこの『2』の登場によって、スーパーマリオシリーズとは大幅に異なるゲームへと進化しました。『2』ではワリオが不死身」という設定になり、ワリオのライフや残機という概念が撤廃されました。ついでに制限時間も撤廃されました。『2』では他のゲームにありがちなHPやハートのような「体力」の概念が無く、ワリオが敵から攻撃を受けてもコインを減らしながら後ろに吹っ飛ぶだけです。『2』は無限に失敗が許され、無限に挑戦を繰り返せるゲームなのです。
 
この『2』は生命力や時間の制限が無いので緊張感に欠けるゲームですが、その「緊張感の無さ」を逆手に取って売り物にしているような気がしました。『2』のBGMはスピード感の無いマヌケな曲が多くて、「プレイヤーを急かしている感じ」がしない。しかもワリオがジャンプすると「ブーン」っていうマヌケな音がして、飛び方にもマリオやカービィみたいに優雅な(?)浮遊感が無い。『2』は緊張感が無く弛んだ世界観を構築していて、当時流行った言葉で言うと「脱力系」を意識的に志向しているように思えるね。
 

さらに『2』では、「リアクション」という新要素が追加されています。ワリオが重しに押し潰されてペラペラになったり、敵が投げてきた食べ物を食べてブクブク太ったり、ハチに刺されて顔が膨らんだり……それはそれはみっともない姿になるんです。しかもワリオをわざとみっともない姿にしないと、ステージを攻略できない仕掛けになってるのよ。このゲームにはみっともない姿になったワリオを笑い者にしている所があって、こういうネタは今やったら人権擁護団体とかから苦情が来るかもしれませんね。だから最近はワリオランドシリーズの新作が作られなくなってるのかもしれないな……考えすぎかも知らへんけど。
 

ワリオランド3 不思議なオルゴール

ワリオランドシリーズの最高傑作はこの『3』だと私は思っています。『2』で確立された「ワリオが不死身」「リアクションによる謎解き」という独自要素に「ステージの開拓」「アイテムの回収」という要素が加わり、ワリオランドシリーズどころかゲーム史上稀に見る傑作になっていました。
 

『3』には、「広大な平原」「炎の洞窟」みたいな名前を冠した個性的なステージが数多く用意されていますしかも各ステージにはそれぞれ4種類のカギと宝箱が設置されていて、宝箱の財宝を回収するのがとにかく楽しいんですわ~。しかも回収した財宝を使って別のステージを開拓したり、財宝でワリオがパワーアップしたり、その恩恵で以前行った事のあるステージでも新しい冒険ができるようになったりするのよ。
 
ワリオランド2』ではライフや制限時間が撤廃され、「無限に失敗が許され、無限に挑戦を繰り返せる世界観」が確立されました。『3』ではそこにもう一捻りで「ステージの開拓とアイテムの回収」が加わった結果、失敗と挑戦を恐れずずっと探索に没頭できるゲーム」に仕上がっています。さらに、ゲーム内の100種類ある財宝を全部集めるとタイムアタックモード」が遊べるようになります。このタイムアタックモードにも制限時間はありませんが、アイテムの最短回収を実質無限に追求できるシステムになってますw
 

『3』には「ヤリマル」「ふっくらげ」とか言った個性的な敵キャラが登場し、敵キャラの大半は人外のモンスターやロボットのような外見をしています。一度倒したザコキャラはエリアが切り替わると復活しますし、ボスキャラもステージに再挑戦する度に復活します。ですので、主人公のワリオだけでなく、敵キャラも基本的に不死身だと言ってよいと思います。もしかしたら敵が倒される度にその敵そっくりの兵力が追加で補充されてるって可能性もありますが……本稿では一応「『3』ではワリオも敵も不死身」という解釈を採用します。*1
 

『3』の結末では、ワリオが戦ってきた敵キャラは元人間」だということが明かされます。『3』のラスボスは、邪悪な力で人間たちを人外に変身させていたのです。『3』では倒した敵が無限に復活するし、最後に敵が元の人間に戻ったので、ワリオも不死身だし、モブの人間たちもみんな無事で良かったね」という、非常に気持ちの良いオチになってるのよ。かつて「敵キャラは元人間」という設定でメチャメチャ重苦しい脚本を書いた虚淵玄とは、えらい作風の違いだよね。
 

死なない記号たちの祝祭

私は最近、教養としての〈まんが・アニメ〉』(講談社現代新書、2001)とかいう本を読みました。この本に、手塚治虫「まんが記号説」について書いてあった。手塚治虫の漫画は絵がリアルじゃなくて、生身の人間から大幅にかけ離れた「記号」みたいな外見のキャラがいっぱい出てくる。にも関わらず手塚漫画の登場人物は作中で血を流したり、極端な話死亡したりする。ブラック・ジャック』の場合、医者が「記号」みたいなキャラを手術したら血が吹き出て、キャラの内蔵が異常にリアルに描かれている場面がよくあって、不謹慎だけどちょっと面白いよね。
 

教養としての〈まんが・アニメ〉の著者である大塚英志さんによると、記号的身体と死にゆく身体が両立してる問題」ってのは、戦後漫画の歴史を語る上で非常に重要な問題らしい。また、漫画の中には「記号」みたいな外見のキャラが負傷する作品だけでなく、セックスをする作品もありがちで、こういうのも記号とリアルの両立」という文脈で語られるみたいだね。つまり、生身の人間とは大幅に違った記号みたいなキャラでエログロを表現するのってどうなのよ?」って話になってくるわよね。
 
しかし、「記号みたいなキャラでエログロを表現する」という問題は、漫画界隈やアニメ界隈の人間よりも、ゲーム界隈の人間がより真剣に考えた方が良さげな問題だと私は思いますね。ゲームには記号みたいなキャラが壮絶に虐殺されたり過激なセックスをしたりする『ゴア・スクリーミング・ショウ』のようにエグい作品がいっぱいありますから、こうした作品を存在論的・倫理学的にどう考えるのかというのは、ゲーム評論家やゲームクリエイターにとって重要な論点でしょう。
 

ゾンビワリオの膝からは骨が飛び出てるけど、まあ多少はね?
で、『ワリオランド』の場合、ワリオが生身の人間よりも顔や口が異常にデカい「記号」みたいな外見をしている。そしてワリオがやられても血が流れないし、『2』『3』では「ワリオは不死身」という設定になっている。ワリオが押し潰されてペラペラになってもすぐ元に戻るし、つぶされた時に骨や内蔵が飛び出るのではないのか?とお考えのみなさま大丈夫です。」と公式サイトにご丁寧に書いてあるw。つまり『2』『3』におけるワリオは「死にゆく身体」を捨て去った不死身の記号」だと言ってよい。しかも『2』『3』は子供向けのゲームだからエロ要素が無いし、色気がある女キャラはせいぜい『2』のキャプテンシロップぐらい。
 
こう考えても、『ワリオランド3はゲーム史上最高峰の発明だと思いますよ。だって『3』では、ワリオも人外の敵になった人間も「不死身の記号」として描かれている。このゲームには不死身という要素があるから、手塚治虫以降の漫画を語る上で問題になる「死にゆく身体」が排除されている。『3』で描かれているのはあくまでも記号たちの遊戯なのであって、『3』というソフト自体が不死身の記号たちの祝祭なんです。よくある戦後以降の漫画みたいに「記号的身体と死にゆく身体を両立させる」のではなく、死にゆく身体を捨象した記号だけの快楽を提供する」っていうのが、このゲームが果たした偉業だと思うのよね。
 
(C)1998 Nintendo
(C)2000 Nintendo
(C)Tezuka Production 1993
注:この記事に載ってるゲーム画面は色んなようつべ動画から切り取りました。問題があると感じた配信者さんはお気軽にご相談下さい…

*1:『2』の敵も一応不死身だと思うんですが、この件に触れると話が拡散してややこしくなるので今回は大目に見て下さい。