かるあ学習帳

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『仮面ライダードライブ』第12話の『箱男』的物語構造

仮面ライダードライブ』第12話白い仮面ライダーはどこから来たのか」は、仮面ライダーシリーズ屈指の神回だと私は評価している。
 

この12話では2号ライダーである仮面ライダーマッハ」が正式にTVでお披露目され、物語の新章が始動する。さらにこの12話は、映像作品としての芸術点が恐ろしく高いと私は主張したい。なぜならこの12話は安部公房の『箱男の影響をほぼ確実に受けており、世界文学の片鱗を感じさせる回だからだ。
 
(以下、『ドライブ』12話のネタバレが多大に含まれています)

 

 

 

「特定レース」の勝者はだれか

仮面ライダードライブ』は、刑事・泊進ノ介(演:竹内涼真)が仮面ライダードライブに変身し、ロイミュードと呼ばれる怪人がしでかす奇怪な事件を捜査するというお話である。12話では怪しい地上げ屋花村金蔵が自宅で頭部を殴打される事件が発生し、この事件にはロイミュードが絡んでいるという説が浮上する。
 
進ノ介は花村の邸宅に出動し、ロイミュードの痕跡を捜索する。するとそこにフリーカメラマン・詩島剛が乱入し、犯人逮捕の競争…「レース」をしようぜと挑発してくる。
 

剛「ハハハ、よーし!じゃあ、競争しよう。
進ノ介「はあ?」
剛「レースだよ。どっちが先に犯人にゴールインするかの、特状課巡査・泊進ノ介VS謎のカメラマンの対決だ。
 

進ノ介は同僚の西城と協力し、インターネット掲示板の書き込みを参考にしながら真犯人を特定しようとする。この場面の面白いところは、進ノ介が犯罪捜査に利用している掲示板のデザインが2ちゃんねるにそっくりなところである。仮面ライダーに変身する刑事の主人公が2ちゃんみたいな掲示板のスレを見ながら同僚と語り合っている光景は、何だかシュールで思わず笑ってしまった。
 

西城「これ、ネットのログなんだけど、戸田が田舎から出てきた時に、雇われた花村に騙されて酷い目に遭って放り出されたようだね。でもさあ、うーん…。」
進ノ介「ロイミュードが選ぶ理由にしては、薄いって言うか、低めなんだよね。」
 
この場面のさらに面白いところは、進ノ介と西城が、掲示板の投稿者を予め特定した上で会話を進めているところである進ノ介たちが見ている掲示板は一見すると2ちゃんに近いデザインなので、匿名性が高そうに見える。そして掲示板の利用者は一応偽名を使っており、容疑者の戸田は特定されない程度に書きます。」と投稿している。にも関わらず、投稿者の戸田が主人公の警察に余裕で特定されているところが、ブラックなユーモアに満ちている。
 

しかしカメラマンの剛はさらに一枚上手で、進ノ介たちよりも先に進んだ捜査を行っていた。剛は事件に関係がある怪人の姿を物陰から撮影し、しかも進ノ介と西城の会話を後ろからこっそり聴いていた。つまり剛は、事件の真犯人を特定するレースで、警察をぶっこ抜く勢いでゴールに到達しようとしているわけだ。
 

剛は恐ろしく速いスピードで傷害事件の真犯人を特定し、仮面ライダーマッハに変身した。マッハは追跡と撲滅に特化したライダーなので、真犯人を圧倒的な戦力を利用して退場させた。この12話では真犯人を特定するレース」が繰り広げられており、剛=マッハが「レースのゴール」に一番乗りでたどり着いた…というのが、素直な解釈であろう。
 

入れ子のような「特定レース」

しかし、「真犯人を特定するレース」に一番乗りで到着したのが剛=マッハだとは一概に言い切れないだろう。なぜなら、メタ的な読解をすると「12話の脚本を書いた三条陸さんら『仮面ライダードライブ』の制作スタッフ」こそが、真犯人を特定するレースに真っ先に到達していると言えるからだ。
 
どういうことなのかを詳しく説明しよう。この『仮面ライダードライブ』とかいうTV番組は、制作スタッフがストーリー展開を予め打ち合わせたうえで収録されている。つまり『ドライブ』の制作スタッフはこの12話の真犯人が何者なのかを、予め知りながら番組を作っている。したがって作中の真犯人を特定するレースで真に勝利しているのは、剛ではなく『ドライブ』の制作スタッフだと言ってよいだろう(ナンダッテ-!
 
さて、この12話の物語構造を整理しよう。まず、花村の邸宅で傷害事件が発生する。続いて、この事件に戸田という男が絡んでいることを、進ノ介たち警察が2ちゃんのような掲示板を利用して特定する。さらに、剛が警察の捜査を後ろから特定し、真犯人を特定するレースの「表向きの勝者」としてゴールする。しかし、この12話の真犯人がだれなのかは番組の制作スタッフが予め特定済みで、そのことが当然の事実として共有された上で映像が出来上がる。
 

では、12話の物語構造を図示する。ご覧の通り、障害事件の発生を着火点として、事件を特定した者が第三者に特定される」という入れ子のように重層的な「箱」のような物語構造になっているのだ。
 

仮面ライダードライブ』と『箱男』の関係

この『ドライブ』12話は、安部公房の『箱男のオマージュだというのが私の見解である。安部公房は『砂の女箱男』のような名作小説を書いた文豪で、急性心不全で氏ななかったら大江健三郎よりも先にノーベル文学賞を受賞できたっぽいと文芸愛好家の間で噂されている。
 
箱男』は安部公房の代表作で、段ボール箱を頭からすっぽりとかぶった正体不明の箱男が登場する箱男は匿名性が高い人物で、「箱の覗き窓から外の世界を覗き見る」習性を持つ。箱男の作中では、「見ること」と「見られること」が非常に重視されている。
 

 見ることには愛があるが、見られることには憎悪がある。見られる傷みに耐えようとして、人は歯をむくのだ。しかし誰もが見るだけの人間になるわけにはいかない。見られた者が見返せば、こんどは見ていた者が、見られる側にまわってしまうのだ。*1
 
『ドライブ』12話は、見ることと見られることの連鎖で成り立っている。事件の現場を警察が見て、警察が剛に見られて、12話のストーリー展開を制作スタッフがカメラで撮って、番組が放送される。そして放送された番組は、私たち視聴者に見られる。…こうして見ることと見られることが延々と繰り返され、重層的な「箱」のような入れ子が次々に作りだされる。
 
また、安部公房の『箱男』には、次のような写真と記述がある。
 

走りつづけたが
追いつけなかった人々の
贋のゴール
旗は振られ
審判も観客も
とうに引揚げてしまった
夜の競技場*2
 

上述のポエムに添えられた写真の興味深い点は、車がたくさん写っているところである。安部公房大阪万博で自動車館のデザインに関わったり、タイヤのチェーンを発明したりするくらい車大好きおじさんだったことで知られている。ちなみに仮面ライダードライブはバイクではなく車を運転する珍し仮面ライダーで、タイヤを交換しながら戦う。さらに箱男の作中では「贋のゴール」が登場するのだが、『ドライブ』12話自体が「レースとゴール」に関する物語になっている。
 
このように仮面ライダードライブ』と安部公房の『箱男』は、「車とドライブ」というキーワードで非常に鼻持ちならない関係で結び付いているの(と俺は思っている)。
 

駄目押しのために、『仮面ライダードライブ』第14話の話もしよう。この14話は、人気女優が怪人に狙われるというお話である。14話の冒頭では、カーブミラーに女優の姿が映し出される。実は『箱男にもカーブミラーの写真が掲載されており、意味深な言葉が刻まれている一頁が存在する。
 

小さなものを見つめていると、生きてもいいと思う。
雨のしずく……濡れてちぢんだ革の手袋……
大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。
国会議事堂だとか、世界地図だとか……*3
 
『ドライブ』14話では、生身の人間の女優が強大な大きすぎる?)怪人に付きまとわれる。私が見たところ、ドライブ』12話だけでなく14話も『箱男と関係がありそうな回だなと思われる。そもそも新潮文庫で現行の『箱男の表紙にもカーブミラーに映った家の写真が掲載されており、クレイジー仮面ライダーヲタクの私は思わず「これ、ドライブでもやったやつやん!」とツッコミを入れたくなってしまう。
 
仮面ライダードライブ』制作スタッフの皆さんよお、、、もしもとぼけてるんならとぼけても無駄だぜ?チミたち制作スタッフの中に『箱男ファンが紛れ込んでいるってこと、オレでなきゃ見逃しちゃうね!
 
…………そしてそこのあなたはこの記事を「見て」いる。しかしあなたも、きっとこの世の誰かに「見られて」いながら生きているんだよ。
 
(C)2014 石森プロ・テレビ朝日ADK東映
(C)Neri Abe 1973

*1:安部公房箱男』、新潮文庫一九八二、三六頁。

*2:同上、二〇〇頁。

*3:同上、一九七頁。