かるあ学習帳

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『異世界おじさん』とサンプリングされたセガの亡霊たち

今、異世界おじさん』とかいうアニメが毎週放送されている。『異世界おじさん』多数派のトレンドを逆手に取るようなアクロバティックな面白さがあるアニメで、続きが気になる作品である。
 

異世界おじさん』の主人公「おじさん」は、17歳~34歳までの17年間異世界を冒険した経験のある人物である。おじさんはトラックにはねられたことを機に異世界グランバハマル」に召喚され、17年ぶりに現世に帰還した。そしておじさんは甥のたかふみ、たかふみの幼なじみの藤宮に、異世界の思い出を語るのだ。
 
異世界おじさん』は、大多数の異世界転生アニメとは逆の発想で設計されていることで知られている。大方の異世界転生は「主人公が異世界に転生して現在進行形で大冒険する」話が多く、最近は転生した主人公がそのまま前世に戻って来ないことも多い。しかしおじさんにとって異世界に転生したことは「過去の話」であり、おじさんは前世に戻ってけっこう楽しげな日常を過ごしている。
 

サンプリングされたセガの亡霊たち

本稿が注目したいのは、異世界おじさん』任天堂ユーザーとソニーユーザーという多数派ゲーマーのトレンドも逆手に取っているというところである。おじさんは17歳まで、メガドライブ」「セガサターンとか言ったセガのゲーム機で遊ぶのに熱中した。そのためおじさんはエイリアンソルジャー』『ガーディアンヒーローズなどに関するマニアックな知識が豊富で、セガのゲーム機で遊んだ経験が皆無の私は、彼のセガ話に殆ど付いていけなかった(笑)。
 

異世界おじさん』では、セガのゲームが執拗にサンプリング(流用、再構築)されている。このアニメのオープニング映像には、『心霊呪殺師太郎丸』『セイントソード』などのオマージュが大量に含まれていることが指摘されている。また、アニメ本編でもおじさんがセガのゲームを楽しく遊んでいる様子が画面付きで描かれている。さらに、作中の効果音もセガのゲームのものを流用しているというのだから恐れ入る。セガに縁が無い私には、何が面白いのか全くわからない場面が多い(笑)。
 

おじさん「そんなことより、ゲームハード戦争はどうなった?セガは?
たかふみ「えっ、セガ今、国内だと、ソニー任天堂が二強って感じかな。
おじさん「は?セガは??」
たかふみ「ねえ、それ今…」
おじさん「セガは???」
たかふみ「いや、とっくに撤退したけど。
 

セガのゲームサウンドが流れる中、おじさんが衝撃を受ける)
 
おじさんは長い間異世界で冒険していたので、彼が留守のうちに現世でセガがゲームハード戦争に敗北していたという事実を知らなかった。セガのゲーム機は言わば「敗戦国」であり、おじさんの「祖国」は崩壊していたのである。異世界おじさん』セガレトロゲームという亡霊への供物であり、故郷喪失者であるセガヲタクを救済する物語である。
 
ネットで調べてみたところ、セガメガドライブ任天堂スーパーファミコンよりも人気が出ず、セガサターンソニープレイステーションよりも人気がなかったという記録が残っている。その後に出たドリームキャストは当時画期的だったインターネット通信に対応していて、当時小学生だった私は「ほお~~~」と感心した記憶があるけど、結局買わずじまいだったな。そういう事情もあってセガのゲーム機で遊んでいた青少年は、「他の友達と話題を共有しにくい少数派」みたいな位置付けだったらしいという説がある。
 

亡きセガハードのためのパヴァーヌ

才ンガク毛ドキさんのブログ「ポサ研」に、セガヘイズ(Segahaze)」という音楽ジャンルが紹介されていた。毛ドキさんの記事によると、セガヘイズというのは「セガのゲームサウンドやムードを流用した音楽」のようだ。おそらく主に外国のセガヲタクが『異世界おじさん』に共通するノリでセガの音楽や雰囲気を流用し、再構築して新曲を作ってるみたいな感じなのだろう。そして海外のヲタクの中にも、セガブランドを異様に偏愛している連中が存在するようだ。
 
ビデオゲームらのサウンドやムードなどは、最初期からのヴェイパーの重要な題材。そしてなぜなのかセガブランドへの固執や偏愛があり、その要素の目だつものが、セガヘイズと呼ばれていた。
(中略)
だがいっぽう、ゲームっぽさの濃いヴェイパーを呼ぶサブジャンル名が、何か他に生じているわけでもなさげ。ゆえに、ここにも参考のため記載。
(毛ドキさんの記事より抜粋)
 
一体なぜ、国内外の一部のヲタクにはセガ・ブランドへの固執や偏愛」があり、『異世界おじさん』や「セガヘイズ」みたいにセガサウンドやムードが執拗に流用されるのか。ここまで考えれば、私には以下の仮説を立てることができる。あくまでも門外漢の仮説なので、ガチのセガヲタクには見当外れかも知らへんけどww←
 
【仮説1】セガのゲーム情報はレア度が高いから

メガドライブにしろセガサターンにしろドリームキャストにしろ、セガのゲーム機はイマイチ人気が出なかった。この事実を肯定的に解釈すると、セガの中古ゲームハードには希少価値があり、セガのゲーム音源はレア音源であり、当時セガのゲーム機で遊んでいたヲタクは貴重な生き証人だということになる。したがって、セガのゲーム音源や雰囲気を取り込んだアニメや新曲を作れば、「ある種の高級感や事情通っぽいオーラ」を発生させられることが期待できる。
 

私は未だにニンテンドースイッチを買わずにニンテンドー3DS遊び続けている任天堂老害である。なので私は、3DSのゲームソフト『セガ3D復刻アーカイブス』シリーズの取引価格がクッソ高騰しているという事実を把握している。セガ3D復刻アーカイブス』を3DSにセットすると、過去にメガドライブセガサターン用だった一部のゲームを3DSで遊べるようになる。つまりこのソフトを購入すれば、セガに疎い人でも異世界おじさんセガヘイズ気取りができるわけだこのソフトは持っていたら他のヲタクに差を付けられるレアゲームなので、4万円前後の相場で取引される場合もあるぞ。
 
異世界おじさん』セガがゲームハード戦争に敗北したという事実を黒歴史にせず、その事実を逆手に取って情報アドバンテージに繋げている。おそらくセガヘイズとかいう音楽も、こういうノリの延長で作曲されているのではないだろうか。
 
【仮説2】敗戦したセガの亡霊を供養できる
セガはゲームハード戦争により、任天堂ソニーに敗北した。しかし当時セガのゲームで遊んでいたヲタクにとっては、セガハードの歴史は一種の英雄譚である。そのため敗戦したセガの亡霊を供養し成仏させ、セガハード王国の栄光の日々を少数派が語り継ぐ価値がある。令和の世相では人類の想像力が過去に退行しがちなので、セガの遺物をサンプリングして「回顧された伝説」「再訪された廃墟」を構築する需要が発生したのではないだろうか。
 
【仮説3】少数派の青春を芸術に昇華できる

セガのゲームハードはイマイチ売れなかったので、当時セガで遊んでいた子供は友達と話題を共有しづらかっただろうと推測できる。このままではセガと青春を過ごしたキッズは「ぼっち」のようなレッテルを貼られかねない(言いすぎ?)。そうなると、セガで遊んだ青春を「美談」のような芸術に昇華する必要が生まれる。そこからセガの音楽や雰囲気を一種のファッションにする『異世界おじさん』や「セガヘイズ」が有り難がられる土台が出来てくるのだろうと思う。
 
ついでに、青春と自虐の話でもするか。去年ぐらいから、ヲタクの間では「感傷マゾ」というキーワードがトレンドに上がるようになった。最近はコロナ禍の影響で学園祭やサークル活動ができず、Z世代がクッソつまらない思いをしている。そのため一部の面倒なヲタクは新海誠とかの青春群像劇で「青春を補充」し、なおかつ自分の青春がクッソつまらないという事実に苦悩するようになる。そして自分の青春が充実していないので年長者と経験を共有しづらいという事実を自虐的に楽しむ」という、病的なメンタルが培養される。
 

異世界おじさん』のおじさんは17歳までの青春をセガと過ごした少数派ヲタクだし34歳までは異世界で苦労していたから現世の人間と大方の経験を共有できない。しかしおじさんは異常に鈍感でしかも優しい性格であり、他者を疑っている所はあっても感傷マゾのような面倒臭さは特に感じられない。おじさんは珍奇な思い出話を語るゲームや異世界での人生経験が豊富」な人で、あまりに嫌な記憶は魔法で葬り去れる。そのためおじさんの見た目はとても気持ち悪いけど、彼の笑顔と性格は、見ていて最高に気持ちが良いのである。